人類が滅亡しないわずかな可能性を実現するために必要な条件—フレッド・グテル著『人類が絶滅する6のシナリオ』より[3]-(松沢呉一)
「洪水の頻発が意味する人口の集中・土地の喪失・食料不足—フレッド・グテル著『人類が絶滅する6のシナリオ』より[2]」の続きです。「まだ少しは地球と人類に希望があるのかもよ—IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の「第6次評価報告書」」と「地中海沿岸・カリフォルニア・シベリアの森林が今も燃えている—フレッド・グテル著『人類が絶滅する6のシナリオ』より[付録]」も併せてお読みください。
国内の異常気象は触れにくい
異常気象は気にしだすと、一日それで潰れてしまうな。
世界各地の山火事は当面続きそうだし、中国は7月に続いて四川省でまたも洪水、ほとんど同時に湖北省でも洪水。どちらも河南省の洪水に比べると被害は小さいですが、湖北省は武漢を省都とする省であり、ひさびさにコロナの感染者も出ていて、ダブルパンチ。
日本も記録的豪雨が続いていて、観測史上1位の記録が続々更新されています。
気象庁が発表しているのは、観測地点単位の自己記録の更新に過ぎず、メダルをとれるわけではないですけど、それでも記録が伸びると嬉しい気持ちが湧いてくるのは、人としてどうなんか。災害であり、人類絶滅への道かもしれないのに。
毎年のように記録的な大雨や強風、気温が続くのは地球温暖化の現象であるとは言えども、災害の真っ最中は、そんなことより人命ですから、リアルタイムに起きている国内の災害は異常気象とつなげて論じるのは難しいっすね。
※気象庁「観測史上1位の値 更新状況 (今日8月13日) 23時30分現在」
危機的状況にあることを宣告したオーストラリアの報告書
フレッド・グテル著『人類が絶滅する6のシナリオ』を読み始めたのは、今年の山火事と洪水の頻発はいくらなんでも異常だろと思ったためなのですが、私の勘は残念ながら正しかったようです。ここまで見てきたように、ティッピングポイント超えはほとんど確定、少なくとも遠からず迎えることになるとしか思えない。
ただ、『人類が絶滅する6のシナリオ』は約10年前の記述なので、以降のブランクを埋めるために、ティッピングポイントについての論考や現状認識についての記事や報告書を読んでみました。たとえば以下。
オーストラリアのブレイクスルー国立気候回復センター(Breakthrough – National Centre for Climate Restoration)が2019年に出した「Existential climate-related security risk:A scenario approach」です。
執筆者はデヴィッド・スプラットとイアン・T・ダンロップ。前者はブレイクスルー国立気候回復センターのディレクターであり、後者はオーストラリアのエネルギー業界幹部だった人物です。いわばCO2をガンガン排出してきた業界の人が、このままでは人類は終わると呼びかけています。
個別具体的な事象についての分析は他の報告書などに任せて、いわば結論部分だけをまとめた内容ですので、科学的素養は不要だし、短いので、読む時間もさほどいりません。暇な方はお読みください。
この報告書の背景にあるオーストラリアの干ばつ
「Existential climate-related security risk:A scenario approach」の結論を言うと、パリ協定の目標値だった産業革命以前と比して1,5度の上昇に抑えることはもう無理として、2050年までに平均気温の上昇を3度に抑えられなければ人類の滅亡は決定。その瞬間に人類が滅亡するのでなく、後戻りできないティッピングポイントに達するということです。何をしようと、以降は地球環境の悪化はもう止められないし、少なからぬ人が熱波、火災、水害、水没、飢餓、土地や食料を奪い合うための紛争で死ぬことになります。あるいは全員死にます。
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