松沢呉一のビバノン・ライフ

地球における適正人口を50億人以上超過してからできることには限りがある—フレッド・グテル著『人類が絶滅する6のシナリオ』より[6]-(松沢呉一)

人工ウイルスが漏れたとしてもなんらおかしくない—フレッド・グテル著『人類が絶滅する6のシナリオ』より[5]」の続きです。「まだ少しは地球と人類に希望があるのかもよ—IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の「第6次評価報告書」」と「地中海沿岸・カリフォルニア・シベリアの森林が今も燃えている—フレッド・グテル著『人類が絶滅する6のシナリオ』より[付録]」も併せてお読みください。

 

 

自身の生活を変えるしかない

 

vivanon_sentence

スウェーデンからグレタ・トゥンベリが登場し、それをひとつのきっかけとしてヨーロッパを中心にXR(エクスティンクション・レベリオン)のような行動が始まったことに対して、その危機感や怒りだけは私は理解していました。ジジババはさんざん環境破壊をして好きなことをやってきたからいいようなもので、自分らは老いることさえできないかもしれない。それに対して怒るのは当然。

ただ、XRについては、その危機感を表明し、社会が共有することを求めるに留まらず、軽率な行動で貧困層を敵にし、メディアを敵にしました。

彼らがやっていたのは大量のバナーやフラッグを作り、塗料を使い、グッズを作り、集めた多額の金で行動をする、これまでと同じ消費的運動でした。。

本来、彼らがやるべきことは、今やっていることをすべて捨てて自給自足の生活をし、生産物は周りの人々で消費し、自身も作物も極力移動させないってことなのではないかとも思います。「余っている農地がある国では」ですが、各都市の数万人がそれをやるだけで少しは変わるかもしれない。変わらない可能性も高いけれど、それに刺激されて、そこまでできない家族や友人、知人たちも生活を見直すくらいはするでしょう。

フレッド・グテルも『人類が絶滅する6のシナリオ』で、大規模農法から地産地消方式の農業に転換することを主張するジャーナリストを取り上げて、その主張の効果を認めています。

XRの参加者の中にはそれを実行しているのもいるでしょうが、多くは消費的プロテストをして、他者の責任だけを追っているようにも見えました。これだと今までと同じ。

「社会を変革するにはまずは自分の変革から」はかくも難しい。でも、そんなもんよね。

私の知人でも、都市生活に見切りをつけて、すでに地方に移住し、将来的には農業で食っていこうとしているのが複数います。助成金が出たり、土地の提供があったり、至れり尽くせり。

では、私がそれができるかと言えばできない。農業をやると確実に腰を痛めます。椎間板ヘルニアがちょっとずつ腰に来ていますから。世界が今どういう状況になっているのか、知識としては知っていても、自分の生活はなかなか変えられず、洪水や山火事よりも腰を優先です。そんなもん。

 

※地産地消・自給率のアップを目指す緑提灯のサイトから。緑色に目をつけたのはナイス。緑の提灯はほとんどないので、すぐにこの提灯だとわかります。ただし、写真を見ればわかるように、手塗りのムラが目立つのが難点。赤でも手塗りはムラが出るのですが、ここまでは目立たない。かといってビニール製にするわけにもいかんですしね。

 

 

結局のところは人口問題

 

vivanon_sentenceエクスティンクション・レベリオンにちらつくエコファシズム—ポストコロナのプロテスト[ボツ編4]」で、XRはエコファシズムを内包しているであろうことを指摘しました。

XRは中国を批判しない。XRの活動ができない中国を批判しない。活動できていた香港でもできなくなりました。おそらく彼らの中には独裁制への憧憬みたいなものが生じているのだろうと思います。民主主義は手続きが多すぎて実行までに時間がかかり、場合によっては実行まで至れない。その点、中国であれば有無を言わさず実行できる。とやかく言うのは逮捕。

「ヒトラー総統だったらやってくれる」と同じで、「習近平主席だったらやってくれる」になっているのだろうと想像します。こんなん、なんの裏付けもなくて、もっとも期待してはいけない相手に期待しています。私の「ヘルペスウイルスだったらやってくれる」の方がまだしも害がない。

XRの活動はその軽率さゆえにこの先支持されることはないでしょう、逮捕者を出しすぎて、その救済や裁判で労力も時間も金も使うので、活動も制限されていきます。

そこに絶望した人々はどういう行動に出るか。フレッド・グテルは意識したわけではないかもしれないですが、『人類が絶滅する6のシナリオ』はそれを想像するに十分な構成になってます。

結局、環境破壊の大きな要因は人間が増えすぎたことにあります。本書に出てくるスタンフォード大の研究によると、「持続可能な世界にとって最適な人類の数は20億人」とのことです(こちらに1994年のスタンフォード大学のリリースが出ています。これによると適正人口は15億人から20億人とのこと)。

人間は食い物だけではない要因が関わるので、もっと計算が面倒ですが、適正人口は「トラップによるカラスの捕殺は効果がないらしい—勘で読んだ松原始著『カラスの教科書』(上)」で説明した環境収容力を人間に当てはめたものです。

 

 

next_vivanon

(残り 1311文字/全文: 3454文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ