松沢呉一のビバノン・ライフ

中国人観光客の減少と変質—中国経済の停滞と国民の不満噴出[中編]-(松沢呉一)

在中国の大使館アカウントを利用した政府批判の方法—中国経済の停滞と国民の不満噴出[前編]」の続きです。

 

 

中国人たちの行動原理は金

 

vivanon_sentence

前回見たように、現在中国のSNSに溢れている国民の不満は、経済的な要因から生じたものであり、香港で民主化運動が盛り上がっていた時でも、「民主化ってなんだよ。儲かるのか? 表現の自由なんていらんだろ。そんなことより、共産党の有力者に取り入って金を儲ける自由が大事」というのが中国人の代表的な反応だったかと思います。

その支えであった金が儲からなくなったら、もはや共産党の存在意義はなし。というのが現在の政府批判、共産党批判、習近平批判の主な中身です。

恒大集団を筆頭に、金を払ったのにマンション建設が中断して、住むこともできないし、金も返ってこないというので、各地で騒動が起きてました。「老後のために買っていたのに」と嘆く人たちをニュースで観ると同情してしまいますが、あの中には、投資のためだった人たちが多数含まれていて、ちょっと前にも、「物件を二軒買った」という人が出てました。明らかに投資です。

株にしても建物にしても必ず儲かるものではなく、これまで株で大儲けしてきたのはインサイダー情報を得られる共産党関係者くらいでしょう。それとて危うくなってきているわけですが、老後のために資産を増やそうとして金を注ぎ込んで共産党に貢献してきた人たちに同情する必要なし。

寝そべり族のように、金のためにあくせく働くこと自体に疑問を抱く層もいますけど、彼らとて、就職できなかったこと、頑張っても就職できそうにないことが原因ですから、金が動機。

どこの国でも多くの人は金のために生きるってもんですが、とくに中国ではその傾向が強いように思います。となると、経済状況が回復すれば、彼らの多くは「やっぱり共産党は素晴らしい」にあっさり戻りそうです。

共産党政府もそれをわかっていて、経済の立て直しを図っていますが、今なおごまかしで問題を先送りしようとしているようにしか見えません。

✳︎2024年2月11日付「AFP BBNews」 メッシをめぐる中国の騒動が続いています。数年前に、元中国代表監督の李鉄を中心とした大規模な八百長が発覚した中国サッカーは、ファンの質も悪いようですが、今回は共産党も巻き込んでいて、共産党としては、外部の敵に国民の不満を向けさせたいのかも。中国の評判を落とすだけだと思いますけどね。

 

 

中国政府のハッタリ

 

vivanon_sentence経済の低迷とごまかしが春節でもよく表れています。

 

 

政府が発表した数字のカラクリについて説明せずに、「今年の春節では、のべ90億人が移動する」としている報道も多数ありますが、お得意のごまかしです。

この報道で説明されているように、これまでカウントしていなかったマイカーでの移動を今年から急にカウントするようになっていて、それを除くと、昨年の数字を下回ります。昨年は、ゼロコロナ解禁後初の春節だったため、とくに移動が多かったのでしょうが、それならそれで正確な数字を出した上で事情を説明すればいいだけです。しかし、日本の報道さえも、解説をせずに中国政府のハッタリ通りに「すげえ」と思わせているのですから、ハッタリの効果があるってことです。

 

 

next_vivanon

(残り 1569文字/全文: 2998文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ