松沢呉一のビバノン・ライフ

在中国の大使館アカウントを利用した政府批判の方法—中国経済の停滞と国民の不満噴出[前編]-(松沢呉一)

 

中国の微博で政府批判が噴出

 

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日本では「港区放尿女子」が世間を騒がせ、英国では「小粉紅」が世界を呆れさせた」に入れ込もうと思いながら外したことをまとめておきます。

中国のSNS微博(Weibo)が大変面白いことになってます。2月2日、在中国米大使館のアカウントアフリカのキリンをGPSを使って保護していることについてポストをしたことから始まります。

中国とは関係のないそのポストにコメントが大量につきます。その数17万! 港区放尿女子並みのバズり方。

しかし、米国大使館が炎上したわけではなく、それらはキリンとはまったく関係がない経済的低迷や株価の下落についての不満を述べた内容でした。ポストはなんでもよく、米国に対して、「アメリカさん、助けて」というメッセージだったのです。

中には中国共産党批判や習近平批判もあって、通常、そんな内容がポストされたら、すぐさま削除され、アカウントも削除されるところですが、コメントがついただけのキリンのポストを削除することはできず、しかも、相手は大使館です。

微博運営、あるいは当局のネット監視担当は、問題のあるコメントをひとつひとつ削除し、彼らにとって「悪質」なコメントをしたアカウントも削除。

場合によっては逮捕もあり得ましょうが、スキルに長けた層でしょうから、国外を経由させるなどしている人が多いかと想像します。

✳︎美国(米国の中国語表記)在中国大使館のキリンについてのポスト

 

 

米国大使館からインド大使館に拡大

 

vivanon_sentenceこの作業が進む中、同日内に、インドなど別の国の大使館のアカウントに飛び火します。在中国インド大使館のポストにも7万を超えるコメントがつき、かつてインドを罵倒したことを謝罪するコメントも。

米国もインドも中国と関係がよくないですが、共産党批判をするためには格好のアカウントです。残っているコメントを見ると、米国やインドを褒め称えています。インドは株価が上がり続けていて、そのことを称えたり、羨ましがったり。その裏には、「それに引き換え中国は」という意味が潜んでいます。

他国の大使館アカウントで、その国を褒めているコメントを消すと国際問題になりかねないですから、もっとも安全な中国政府批判です。

かつて中国では壁新聞を政府側が活用し、やがて民衆側が政府批判を始めて禁圧された歴史があります。監視カメラが至るところに設置された現在では壁新聞なんてできるはずがなく、時折落書きや横断幕が出るくらいです。

2022年10月、習近平の書記長三期目が決定する党大会が開かれる直前に、「新型コロナウイルス検査はノー、食品はイエス。ロックダウンはノー、自由はイエス。嘘はノー、尊厳はイエス。文化大革命にノー、改革にイエス。偉大な指導者にノー、選挙にイエス」と書かれた横断幕が北京市内に登場し、すぐさま撤去されますが、SNSで写真が拡散されました。SNSが壁新聞となりつつあります。

 

 

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