江崎グリコが韓国ロッテを訴えた二件の裁判—文化盗用とパクリ[8]-(松沢呉一)
「「韓国が日本からパクったように、日本も米国からパクってきた」との主張は粗雑すぎて、もはや虚偽と言っていい—文化盗用とパクリ[7]」の続きです。
江崎グリコが韓国ロッテを訴えた裁判で、グリコが敗訴
前回確認したように、プレッツェルは、数百年前からヨーロッパで愛されていたパンやクッキーです。それまでにもスティック状のプレッツェルはあって、それを極端に細いスティックにして商品化したのが江崎グリコの「プリッツ」。1963年のことです。その3年後の1966年、同社はチョコレートでコーティングした「ポッキー」を発売。
ポッキーをまんまパクったのが韓国ロッテの「ペペロ」です。1983年のことです。赤を基調にしたパッケージも似ていて、総合的に見て、パクったことは疑いがないでしょう。
その意趣返しのつもりだったのか、韓国ロッテが1997年に11月11日を「ペペロデー」としたことを真似るように、1999年、グリコは同じ11月11日を「ポッキーデー」とします。ポッキーをパクられたのだから、このくらいいいだろうと思ったのかもしれないですが、これはやるべきではありませんでした。
これをやると相手のレベルに堕ちますし、JINさんの動画でもそう見えてしまうように、「どっちもどっち」に持ち込まれます。先にパクったのは韓国ロッテであり、私の印象では、パクリ度は10対1にもかかわらず。
グリコは1970年代から輸出に力を入れ、ヨーロッパでは「MIKADO」という商品名で、また、米国ではそのまま「POCKY」で販売していましたが、ここでも後追いをして、2000年から韓国ロッテは米国に「ペペロ」を輸出。
ついに、2015年、グリコは韓国ロッテを相手取って米国で商標権侵害訴訟を起こしました。しかし、2021年、グリコの敗訴で終わっています。
ざっくり判決文を読みました。グリコは「チョコなどでコーティングし、手で持つ部分にはコーティングしないビスケット」を内容とする立体的形状の商標登録を米国で済ませていました。しかし、判決では、その類似を認めながら、この形状は「手にチョコがつかない」という機能に基づくものとしています。このような実用性は広く消費者の利益になるため、真似されても対抗できないとの規定があるようです。商標は企業やブランド、商品の個性や独自性をアピールするものですから、言わんとすることはわかります。ここは特許や実用新案とは違うところで、実用性のない意匠であれば勝てたのかもしれません。
私は商標については詳しくないので、読み方が間違っていたら、ごめんなさい。いずれにせよ、負けていますから、この手の工業製品のパクリを法的に追及するのは難しいのです。
江崎グリコが韓国ロッテを訴えた裁判で、グリコが勝訴
もうひとつの訴訟。
2014年、韓国ロッテは、グリコが発売した高級版ポッキーである「バトンドール」(2012)をパクった「ペペロプレミア」を発売、同年、グリコは「ペペロプレミア」のパッケージがデザイン権侵害に当たるとして韓国ロッテを訴えます。2015年、ソウル中央地裁はグリコの訴えを認め、ロッテに全品破棄を命じました。
「デザイン権」は韓国では独立した法で認められているのか、商標なり著作権なりに含まれるのかまでは調べていないですが、これは画期的な判決です。
韓国の司法は政治に左右され、国内利益を優先する「愛国判決」を下す傾向が強いため、韓国企業が国外進出をしてから、そちらの国で訴えることがよくあります。米国での裁判はその例かもしれません。
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