「韓国が日本からパクったように、日本も米国からパクってきた」との主張は粗雑すぎて、もはや虚偽と言っていい—文化盗用とパクリ[7]-(松沢呉一)
「日本製品をパクった韓国のお菓子事情を語るのはけっこう面倒—文化盗用とパクリ[6]」の続きです。
「日本も米国も韓国同様にパクってきた」という主張
前回取り上げたJINさんの動画は参考にはなりますが、同意はできません。
動画の後半では、日本のお菓子は米国の先行例を踏まえており、その米国もヨーロッパを手本にしてきたと指摘されています。同様に韓国は日本のお菓子を真似てきたのであり、ベンチマークとして考えるなら、JINさんは、どれも肯定されるべきと考えているようです。
このような考え方はJINさんのオリジナルではなく、「韓国は日本からのパクリばかり」との批判に対して、「日本も米国からパクっていたではないか」と返す韓国人が多数いますし、ネットでも多数見られます。日本でも「日本もパクってきたのだから、韓国を批判する資格はない」と言いたがる人たちがいます。
この点は、私の考え方とは大きく違います。ここで、再度、「りくろーおじさん」のチーズケーキを考えてみましょう。パクったとしか思えないコイサンズ社は、オリジナルと錯誤させて買わせようとしたわけではないでしょう、おそらく。「りくろーおじさん」のチーズケーキが売れているので、「似たものを出せば売れるぞ」と単純に考えたのだろうと思います。
すでに書いたように、そのような場合でも、多くの日本人は自社製品なりの特性を打ち出そうとするってもんです。ケーキの形状は円か四角か楕円でしょうが、あえて三角にするとか、星形にするとか、底にレーズンではなく、栗を入れるとか、餡子を入れるとか、焼き印ではなく、チョコで絵を描くとか。ホールで売るのではなく、ありきたりの小さく切ったサイズにしながら、10種の味違いを準備するとか。なんだっていいですが、そういう工夫があるから、消費者の選択肢が広がるのですし、自分の好きなものを見つける機会となります。まさにJINさんが言うベンチマークの効用です。
しかし、コイサンズ社版は食べても差がわかりにくいようです。大阪に行って買うか、土産にもらうしかなかったものが、コイサンズ社版が買えるようになったのは消費者のためになったようにも見えますが、オリジナルの付加価値を破壊しています。法的には問題がないとしても、先行者への敬意も、自分らの独自性もない行為に、「パクリだろ」と感じるのは健全。
成文化された法ではない以上、誰もがこの感覚を共有しているわけではなく、「こんくらいいいだろ」と感じる人たちもいて、そういう人たちがいてもいい。しかし、これがパクリだと思う人が買わない選択をしてもいいし、「パクリだ」と言い続けるのもいい。でも、不買運動はやりすぎ。業務妨害になりかねませんので、やめておきましょう。
✳︎Wikipediaより、今もパン屋で売られている各種プレッツェル。
「ポッキーは米国からパクった」説を検証する
では、かつて日本の菓子メーカーは、コイサンズ社のようなパクリをしていたでしょうか。そういう例もあると思いますが、JINさんの動画で、日本が米国の商品を参考にした」として最初に出しているのは江崎グリコのポッキーです。これではポッキーがプレッツェルをパクったようですが、これは幾重にも間違い。確認しましょう。
プレッツェルはよく日本のクッキーセットにも入っている結び目のような形のお菓子とそこから派生したお菓子の総称です。一般名詞ですから、「プレッツェルをパクった」という指摘自体、ピントがズレてます。せんべいを商品化したメーカーに、「せんべいをパクった」と難詰するようなものです。その上でオリジナリティがあるかどうかが問われましょう。
プレッツェルの歴史は古く、古代ローマ発祥説もあるようですが、はっきりしているのは中世のドイツで広く浸透していたことです。当時はパンです。、16世紀にはドイツでチョコをコーティングしたものが登場。
18世紀後半には米国でもドイツ系移民からプレッツェルが浸透していきます。19世紀にはペンシルバニアで、クッキータイプのものも出てきて、ブリキ缶に入れられて販売されるようになります。ここからソフトプレッツェルとハードプレッツェルの区分ができます(この言葉が使われるようになったのは商標として登録された1970年代以降か。下記参照)。
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