松沢呉一のビバノン・ライフ

古谷徹・実質引退という予想外の結末—潔さも年齢には勝てない-(松沢呉一)

 

古谷徹の潔さは通用せず

 

vivanon_sentenceMrs. GREEN APPLEは、やったことは最低でも、速やかに謝罪をしたのは正解。批判に納得できなければ反論するのもありとして、自分らにミスがあったと納得したら、すぐさま謝罪するのが最善です。そのうち「コロンブス」の件は忘れられるでしょう。

古谷徹が「週刊文春」の報道を全面的に認めて謝罪したのを見た時も、「おお、これは見事。ダメージは最小に留まるのではないか」と予想しました。対処が迅速で、言い訳めいたことも言わず。

潔いだけでなく、声優です。前に書いたように、生身の姿を晒してナンボの一般のタレントと違って、声優は半ばファンタジーの世界にいます。

そう思っていたのですが、古谷徹ともなると、声優というテレビタレントでもあって、お茶の間にも浸透している存在ですから、予定されていた声優の仕事やイベント出演の仕事はあらかた消えたようです。さらには「名探偵コナン」や「ONE PIECE」も降板。最後の砦も陥落です。

それでも、ただの不倫であればさしたる話題にはならなかったかもしれないですが、「堕胎を強いたこと」「暴力を行使したこと」「子どもができないとウソを言ったこと」など、やったことがゲスすぎましたわね。

それにしても相手は合意の上で付き合ってますし、あの潔さですから、「個人間のトラブル」として、スルーされるかもと想像していたのですが、すべてを失った感があります。

✳︎2014年6月25日付「ZAKZAK

 

 

年寄りの性は薄気味悪い

 

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ここで無視できないことがあります。年齢です。

「週刊文春」が報じた当初、「70歳にもなって、まだそんなことをしているのか」「ジジイの醜聞は気持ち悪い」といったように、年齢に言及している反応が多く見られました。告発者との関係が始まったのは2019年ですから、当時は65歳ですが、初老が性欲ムンムンで自らファンに連絡したのです。

「いくつになっても、性欲はあっていいではないか。恋愛してもいいではないか。老人ホームでもヤリチン、ヤリマンがくっついたり離れたりを繰り返しているではないか」と言いたいところですが、私も老人の性や恋愛はあさましいと思ってしまいます。この私がそう思うのですから、一般的にはさらにあさましく見られます。

年寄りがセックスを貪ると否定的にとらえられるのは理解できるのですが、「なぜか」についてはよくわからず、ずっと考えてました。

例えば、10億円の土地と10億円の有価証券、10億円の現金を持つ80代の富豪が妻に先立たれ、その1年後に20代の若い女を後妻を迎えたいと言い出したら、それを聞いた人のほとんどすべては「相手の女は財産目当てだろ」と思うってもんです。老人も若い女もどっちもあさましく見えます。他人としては「ジイさんもそうとわかっているだろうから、好きにしたらええ」ってことでしかないですが、財産分与が減る子どもや孫は再婚に反対しましょう。

この老人の結婚相手がちょうど夫に先立たれた幼馴染だとしたら、子どもらは「いまさら籍を入れなくても」なんて言いますが、外野の反応は180度変わり、「本当は彼女が本命だったのに、親が“あんな貧乏な家の娘はうちの家系に相応しくない”と反対して、60年ぶりに愛が実ったらしいとの噂が流れてきて、祝福ムードとなりそうです。

この、あり得そうな仮想が「老人の性はあさましい」という印象の背景にありそうです。つまり、年齢が大きく離れている関係では、金銭なりなんなりの見返りなしに恋愛は成立しにくく、若い方が年寄りに性的魅力は感じにくいのです。成立しにくく、感じにくいだけであって、世の中には老け専がいますし、年齢は関係ない人もいましょうけど、まあ稀です。

その現実を前に、「若い女と結婚する」と言い出せば、「相手は財産目当てだ」と推測するのは多くの場合、間違ってません。であるが故に、ジイさんの枯れないピュアな欲望が顕になって気持ち悪い。

✳︎青二プロダクションのサイトより古谷徹による「降板のご報告とお詫び」

 

 

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