松沢呉一のビバノン・ライフ

21年前のヴェロニカ・リン殺害事件と11年前のリン・リン殺人事件—スウェーデンでも中国でもタイでも話題沸騰の林友逮捕[前編]-(松沢呉一)

米人観光客による連続放火—外国人犯罪の新たなジャンルを開拓か」の続きです。

 

 

21年前にスウェーデンで起きたヴェロニカ・リン殺害事件

 

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前回見たように、犯罪人引き渡し条約を交わしてない国で中国人がなした犯罪について、犯人が中国に逃げ帰った場合、中国内で中国の法で裁くことを要請することが可能。ただし、条件があって、中国の法で最低刑が3年以上の懲役刑に該当する犯罪じゃなければなりません。

中国人が通常の交通事故で日本人を轢き殺しても、最低刑が3年ということはないですから、該当しないですが、米国で中国人が酔った上でスピード違反をして事故り、同乗者の中国人を殺した事件では、被害者も中国人なので該当しそうです。ただ、あれは故意ではないので、どうなんだべ。

最近、要件を満たす犯罪をやった中国人が中国で逮捕されました。これは、スウェーデンで起きた事件なのですが、21年も前の話です。情報が錯綜しているので、整理してみました。

スウェーデン人sである31歳のヴェロニカ・リンは、離婚後、親元に戻って、両親と3歳の子どもと暮らしていました(4歳としている中国メディアがありますが、たぶん数え方の違い)。リンという姓は結婚時のもので、旧姓はリンドグレーンだと思われます。現在24歳になる息子の名前はマーカス・リンドグレーンなので。

2003年3月18日、夜になってもヴェロニカが帰ってこないため、両親は警察に通報。警察は、隣家で殺害されている彼女を発見します。隣家にはヴェロニカに親友である中国人のTang Qingzhongという男性が住んでいたのですが、追ってその家から、彼の遺体も発見されます。

✴︎ヴェロニカと夫の林友

 

 

夫の林友と実行犯と思われる張建松はすぐさま中国へ

 

vivanon_sentence警察はヴェロニカの元夫である中国籍の林友を疑います。林友自身の手で殺したのでなく、第三者に殺人を依頼したというものでした。この人物は特定されています。張建松という中国人です。彼の血痕が殺害現場に残っており、かつ林友が滞在していたホテルからも血痕が発見されています。犯行後、報酬を受け取るために、林友に会ったのでしょうか。

2名ともすぐに国外に出ており、警察は林友を国際指名手配とし、中国政府の許可を得て、林友がいるはずの大連でも捜査しますが、成果はありませんでした。張建松も行方知れずでした。

ヴェロニカは中国に留学していたことがあり、その際にバイトで英語を教えていて、林友はその生徒でした。林友は不動産王と呼ばれる王健林の妻の弟です。つまりは義理の甥。

王健林の資産は125億ドル(約1兆3600億円)と言われ、その一人息子であり、遺産を相続する王思聡はeスポーツの会社を経営しているのですが、放漫経営により、約2160万ドル(約23億5200万円)の負債を抱え、複数の裁判を起こされています。父親が亡くなれば莫大な遺産が転げこみますから、そんな状態でも贅沢三昧の生活を続け、裁判で贅沢禁止令を出されています(ファーストクラスでの旅行、不動産の購入、豪華ホテルでの宿泊、休暇に出掛けること、ゴルフ、ナイトクラブに行くことが禁止)。絵に描いたような放蕩息子、バカ息子です。

林友も健康器具の企業を経営しているようですが、おそらく親族の資産に寄生していたか、あるいは姉に遺産が入ってくることを前提にして借金をしていたのか、なんぼでも金があるので、殺人も金で依頼し、自由自在に逃亡できたのでしょう。

✴︎2019年11月19日付「BUSINESS INSIDER」  真ん中が王思聡。小泉進次郎にちょっと似てます。中身もあんな感じか。友人の開店パーティということですが、周辺にはバカ息子に取り入って、金を引っ張り出す悪い奴らが集まっていそうです。

 

 

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