「Perfumeの口パクはなぜ許せるか」問題—タレントとアーティストの間にあるもの-(松沢呉一)
「BLACKPINKとLe Sserafimを擁護する—アイドルは口パクをしてもいい」の続きです。
BABYMETALの口パク、Perfumeの口パク
日本でも、しばしば口パクが話題となります。BABYMETALも俎上に上がっていたことがあります。SU-METALが口パクだったら、私も失望するところがあります。アイドルではあれ、BABYMETALはバンドの力も大きく、SU-METALがそれを完成させていますから、ロックバンドが口パクしているのと同じ。
しかし、疑惑が出ていたのは両サイドのふたりです。だったらOK。あのふたりはアイドル分野の担当であり、あれだけ踊っていたら、歌えないでしょ。対して、SU-METALは歌っている時はそこまで激しい動きをしていませんので、歌を重んじていることがわかります。さすがやね。
「Perfumeの口パクはなぜ許せるか」という議題があります。ライブの映像を観ると確かに口パクに見えるところがあります。口パクだったとしても、「許せない」という人より、「許せる」という人が多いのです。私も許せます。「なんでだ」って問題。
もっとも説得力のある答えは「アイドルだから」です。忘れがちですが、Perfumeの出所はアイドルです。しかも、テクノ系アイドルらしく、ロボット的。ロボットやアンドロイドなら、プログラムされた通りに歌っているだけであって、口パク以外の何ものでもない。Suno AIのような生成された音声であれ、ボカロ的な人工音声であれ、口パクであることに違いない。
なんの問題もなし。
Perfumeだけでなく、アイドル全般、口パクであってもいいような気がしてしまいます。とくに芸能界が支配するテレビでは。
対して、ロックバンドは、テレビであっても、口パクだと「ダッせえ」になります。確かそういう例もあったはず。
スポーツ選手が金をもらってわざと負けるのは八百長。それがバレたら叩かれて、永久追放されていい。場合によっては法に抵触します。
でも、プロレスでは八百長あり。シナリオのある虚構であり、虚構じゃないとできないことをやるのが使命です。プロレスはショーですから、ロープに飛ばしても戻って来ず、大技が何も出ず、観客には見えにくい地味な関節技ばかりだったら、「金返せ」です。
プロレスラーに「八百長だ」と非難する無意味さと同じく、アイドルに「口パクだ」と非難するのは無意味です。
口パクの始まりは1970年代か
最近、ミュージシャンをアーティストと呼びます。私も使うことがありますが、なんかケツがむずむずします。私のケツはどうでもいいとして、私はアイドルをアーティストとは呼ばない。アイドルはタレントあるいは芸能人。アイドルは芸能界が作り出す虚像です。虚像だから面白いということもよくあるのだから、それが悪いと言っているのではありません。
歴史的に見ても、アイドルに口パクはつきものです。
私が小学校の頃、音楽番組には、ダン池田とニューブリードや原信夫とシャープス・アンド・フラッツのようなビッグバンド・スタイルの番組付バンドがいました。米国の音楽番組をなぞったものでしょう。あの時代は口パクの余地はありませんでした。
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