松沢呉一のビバノン・ライフ

報道の娯楽化と自律性の放棄—ジャニーズ時代の終焉と新時代の幕開け[11]-(松沢呉一)

日本テレビの検証では見えない問題点を見抜く—ジャニーズ時代の終焉と新時代の幕開け[10]」の続きです。

 

 

「芸能人としての役割を果たしてくれればいいという考え」はそんなにおかしくない

 

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前回に続いて、日本テレビの検証番組を見ていきます。

前回出てきた人物とは別人と思われますが(実名までは出さずとも、イニシャルくらいつけて欲しい)、当時の編成部幹部はこう言ってます。

 

ジャニー氏の男の子好きは広く知られていた。ただ見ないようにしていただけだ。よけいなことを言って揉めたくないと思っているから。それだけ事務所に力があるから、忖度していたのは間違いない。私自身噂として知ってはいたが、あんなにひどい状況だったということは知らなかった。彼らのバックヤードまで探ろうということはなかった。芸能人としての役割を果たしてくれればいいという考えだった。性加害への認識が甘かったことについては反省すべきだ。

 

多くの局員が薄々気づいていながら見ないようにしていて、その背景には事務所への配慮があったことを認めています。噂は知っていても真偽を確かめようとしなかったのは「芸能人としての役割を果たしてくれればいいという考えだった」のは、いやらしい言い方にも聞こえましょうが、現場の感覚としてはそんなに無理のない言い分です。

顔合わせや打ち合わせでもないのに、タレントを呼び出して飲みにいくような局員は決して多くない。そもそも撮影現場に、局員はディレクターと局アナしかいないのが普通で、製作会社に完全にお任せの現場もよくあります。それだけ下請けに出すパートが増えているわけです。

プロデューサーは事務所との折衝はあっても、また、事務所の人間に接待されることはあっても、現場にはたまに顔を出すくらいで、タレント自身との接点は決して多くなく、タレントの不満を聞く機会はあまりないはず。

これはテレビ局だけのことではなく、建設会社が下請けに出している現場に人夫出しをしている会社内部の事情なんて知ったことではなく、「役割を果たしてくれればいい」としか思わないのはそれほどおかしくはない。現場で違法行為があれば別として。

BBCでは局内の行為が問われましたが、ジャニー喜多川は局内で知り合った相手を対象にしていたのではなく、行為のほとんどは合宿所、つまりジャニーズ事務所が管理する場所で行われていたため、BBCとは大きく違います。

建設会社とは違って、メディアの場合は契約相手の企業内に踏み込んで違法行為を正すことより、社会に向けて報じる役割が期待されていて、おもに問われるのは「なぜ報じなかったのか」であると考えます、

 

 

そんなことより問題は…

 

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2000年代にジャニーズ事務所のタレントが多数出るようになり、競合するタレントを排除する過程についても、当時の編成幹部が語っていますが、まだまだ語っていないことがありそうです。

ジャニーズ事務所に限らず、売れているタレントを抱えていると、「こちらを出すなら、こっちの新人も」と抱き合わせで売り込むという話は私もよく聞いたものです。こうして、新人も人気を得るチャンスを与えられて、数年後には次の新人を抱き合わせる。

同時に、「うちのタレントを出すなら、あれ出すな、これ出すな」と他の出演者にも口を出す。あるいは、番組側が忖度する。

さらには、音楽番組では「A社とB社は各2組、C社とD社とE社は各1組」といったように事務所単位で枠が振り分けられているという話もよく聞きました。事実かどうか知らないですが、キャスティングの決定権を譲り渡しているわけで、これはまずいでしょ。

パート2のまとめは森實陽三・コンテンツ戦略局長の話(編成部などを統轄する立場です)。

 

まずはこの性加害問題についてこれまで人権侵害という意識が持てなかったことをとても反省しております。ジャニーズ事務所についてはとても影響力のある大きな取引先ステークホルダーであったと思います。そして才能や魅力のあるタレントが多く所属し、番組政策の際にはその仕事のクオリティの高さに助けられることもあるため、ジャニーズ事務所のタレントを起用する機会が徐々に増えていったのかと思います。しかし、社内のヒアリングにもありますように、負の側面としては影響力が大きいだけに、事務所にとってのマイナスな提案や交渉をしづらい側面があったのかもしれません。ひとつのネガティブな提案によって他の交渉にまで影響迷惑がかかることを気にするといったことです。そういった状況であったことは改善すべきと考えております。

 

編成部は視聴率を取れるタレントを使いたがるものであって、視聴率がすべてになっているのはまずいとしても、人気や実力のあるタレントの所属する事務所とうまくやっていこうとするのが悪いとは思えず、そこを改善しようとしても無理です。

それより、その感覚が現場に浸透してしまうことが問題でしょう。とくに報道が編成の感覚を共有してしまうのが問題。こちらはある程度改善が可能だろうと思われます。

 

 

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