『聖☆おにいさん』 日常というのは何も事件が起きないということではあるまい (柳下毅一郎)-2,463文字-
聖☆おにいさん
監督 高雄統子
脚本 根津理香
音楽 鈴木慶一、白井良明
声の出演 森山未來、星野源
本当に、何がおもしろいのかさっぱりわからなかったですわ。ここまでわからないと、こっちに何か欠落があるんじゃないかって気がしてきますね。これだけの手間と金をかけて映画が作られているからには何かしら面白いところがあるはずだんだが、それがなんなのかまるっきりわからないのである。何かこっちにはまるで理解できない論理があるに違いない……と思いながら見ていたが最後までその論理はわからぬままだった。まさに異文化との遭遇で、呆然としたまま見終ったのである。
これは中村光の同名コミックのアニメ映画化。天界から降りてきた仏陀とキリストが一年間の休暇を立川市で過ごす。節約してアパートを借りるが、周囲からは「ヘンな外人」扱いされてしまうハートウォーミングコメディ……ってこの時点ですでに一発ギャグでしかない。さてこれをどう転がすのか……と思ったら何も転がってなかった、みたいな。
妙齢の、女っ気ないイケメン男性二人、世間知らずで浮世離れした王子様の同居生活ということで、その筋のお姉さまにそこはかなとなく人気があるというのは理解できないでもない。しかし、それにしたってあまりに物語がなさすぎではなかろうか? それとも物語がなければないほど萌えられるとかそういう話なのか? おりしも声優には森山未來と星野源という文科系女子に人気の顔を並べて、そっち向けの対策は万全である。だから、あるいは女子のファンに訊ねたら、「面白いよ!最高!」という答えが帰ってくるのかもしれない。だが残念ながら映画館に女性観客はほとんどいなかった。
物語は四季に合わせて四つほどのエピソードが語られるオムニバス型式。仏陀が細かい性格で、イエスはおおらかで天然ボケという性格づけだけがあって、あとはとりたてて宗教的でもないお話がくりひろげられる。
たとえば夏、近所の神社のお祭りに二人で出かける話。綿菓子を見て「雲みたいなお菓子だな~」とはしゃぐイエスだが、顔をつっこんで顔中ベタベタになってしまう。「……裏切られた気分だよ」とぼやくイエス。
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