『劇場版タイムスクープハンター -安土城 最後の一日-』 安易なる“劇場版”の氾濫 (柳下毅一郎) -3,280文字-
監督・脚本 中尾浩之
撮影 小川ミキ
音楽 戸田信子
出演 要潤、夏帆、杏、時任三郎、上島竜兵、小島聖、嶋田久作、宇津井健
『タイムスクープハンター』はNHKで放映されている人気歴史バラエティ番組。タイムスクープ社の時空ジャーナリスト、沢嶋(要潤)がタイムトラベルによって過去に遡り、教科書に載らない名もなき人々に密着して記録した映像から歴史の真実を追いかけるという筋書きである。要は手持ちカメラを使ったドキュメントタッチで時代物をやり、ドラマ仕立てで最新の歴史考証に基づく庶民の生活を見せていこうという仕掛けなのだ。要潤は
「わたしたちは彼らにとっては未来人のようなものです。歴史を変えてしまう可能性があるので、接触には最新の注意を払わなければなりません」
と言いつつ
「特殊な交渉術によって、撮影が可能になりました! 交渉の方法は……極秘です!」
と普通に撮影し、普通に過去の人にインタビューとかしている。いやまあそれはお約束なのでわざわざ突っ込むほど野暮ではない。野暮ではないのだが、こういう突っ込みどころの多い設定をそのままにしてドラマを拡大していくと、当然問題が生まれてくることになる。だから安易な“劇場版”の氾濫に毎回警鐘を鳴らしているのだ。歴史バラエティなら笑って許せることでも、映画にされてしまうとそうはいかなかったりするのだよ。
さて、今回、沢嶋がやってきたのは戦国時代。1582年、本能寺で明智光秀が織田信長を討ち、人心は千々に乱れていた。歴史に残る大事件ではなく庶民の暮らしを伝えることに誇りを持つ第二調査部・沢嶋が今回調査対象に選んだのは禁裏に逃げこんだ難民たちの救援活動にいそしむ織田家家臣矢島権之助(時任三郎)であった。織田家の家臣がさっさと逃亡し、最悪の治安状態になった京都に一人残って炊き出しをしていた権之助。何が彼を駆りたてるのか……? ところがそこで思わぬ展開が。本能寺から辛くも脱出した博多の豪商、島井宗叱(上島竜平)を博多まで送り届ける仕事を託されたのだ。宗叱は一国をも買い取るほどの価値があるとされる名茶器楢柴肩衝(ならしばかたつき)を持っていた。京都を抜け、堺へ向かう権之助。途中、明智軍の兵に誰何され、絶体絶命の危機に陥るが、たまたま暴徒に襲われて九死に一生を得る。主人公が窮地に陥ると必ず真横から矢とか石つぶてとかが飛んできて、都合良く相手が死んでしまう。実はこの展開、このあとたびたびくりかえされることになる。野武士の襲撃を撃退するも、権之助は相手を殺そうとしない。
「拙者は、出世を捨てた侍でござる……」
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