[号外/無料記事] 『サッカーに裏切られた天才、エレーノ』 ブラジルの元祖「輝けるバッド・ボーイ」 -ヨコハマ・フットボール映画祭、2/8(土)に開幕! (柳下毅一郎)
柳下毅一郎が審査委員長をつとめる「ヨコハマ・フットボール映画祭」が、2/8(土)から4日間、横浜のブリリア ショートショート シアターにて開幕いたします。
今年も、日本未公開作品4本を筆頭に世界のサッカー映画が多数ヨコハマに集結いたします。
今回は公開される作品の中から、『サッカーに裏切られた天才、エレーノ』をピックアップして柳下毅一郎がご紹介いたします。
(編集部)
1920年に生まれたエレーノ・デ・フレイタスは40年代ボタフォゴのFWとして頭角をあらわす。182センチの長身でハンサムだったエレーノはたちまちスターダムに駆けあがった。女はよりどりみどり、酒もドラッグもやり放題。神からかけがえのない才能を与えられたエレーノは、同時に高慢でプライドが高い気分屋でもあった。彼には“ギルダ”のニックネームがつけられた。高貴なる気分屋、恋人を破滅させるファム・ファタール。エレーノ・デ・フレイタスこそロナウドやロマーリオたちの大先輩、ブラジル最初の「輝けるバッド・ボーイ」なのである。
ボタフォゴで十年足らずで二百ゴールをあげたエレーノはセレソンにも選出され、十八試合の出場で十九ゴールをあげた。1945年、チリで開催された南米チャンピオンシップ(現在のコパ・アメリカ)では六点を挙げて得点王に輝いた。まちがいなく世界的なスターになれるはずだった。だが、1942年に開催されるはずだったワールドカップは、第二次世界大戦の勃発により中止された。次にワールドカップが開かれたとき、“ギルダ”の輝きはすでに失せていたのである。
ブラジル・サッカーの知られざる天才、エレーノ・デ・フレイタスの伝記映画『サッカーに裏切られた天才、エレーノ』だが、実際のプレイ場面はあまり出てこない。むしろ奔放な女たらしっぷりと傲岸不遜な私生活のほうに重きをおかれている。演じているのは二枚目俳優ホドリゴ・サントスなのだが、後半、梅毒に感染してボロボロになってゆく描写まで、大熱演で大いに魅せる。クラブ歌手の愛人と良家の娘である美女を両天秤にかけて遊び、試合ではゴールを決めて「オレがいくらゴールを決めても、おまえらクソどもが点を取られるから勝てないんだ!」と指をつきつけて罵倒する。フラメンゴとのリオ州選手権決勝戦ではPKをはずして敗北するのだが、クラブから準優勝の賞金をもらっているチームメイトに激怒し、目の前で金を燃やしてしまう。そんなことをくりかえしていたら、どんなにゴールをあげようと、疎まれるのは当然のことである。
エレーノは記録的な移籍金でアルゼンチンのボカ・ジュニアーズに移籍する(ちなみにチームメイトにはディ・ステファノもいたのだが、その「誰よりもスターだった」と当時スポーツ記者だったガルシア=マルケスは書いている)。だが、不在のあいだ、エレーノの短気に愛想を尽かした妻は、彼の親友の元に走ってしまうのである……
まるで出来すぎたメロドラマのようだが、すべて事実だからびっくりする。映画は格調高くモノクロでエレーノの悲劇を語る。ホドリゴは熱演だが、時間軸のランダムな交錯が行き過ぎて、一部、筋を追いにくい部分もまま見られるところ。