柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『ふしぎな岬の物語』 「魔法をかけるの。美味しくなーれ」って、萌え萌えきゅんかよ!男は全員吉永小百合に惚れるという大前提 (柳下毅一郎) -2,850文字-

FireShot Screen Capture #003 - '映画『ふしぎな岬の物語』公式サイト - 大ヒット公開中!' - www_misaki-cafe_jp_index_html

 

『ふしぎな岬の物語』

監督 成島出
企画 吉永小百合、成島出
脚本 加藤正人、安倍照雄
撮影 長沼六男
音楽 安川午朗
出演 吉永小百合、阿部寛、竹内結子、笑福亭鶴瓶、笹野高史

ico_yan 吉永小百合ほど奇妙な映画女優もあまりいないのではなかろうか。この人が日本を代表する大女優であるのはまちがいない。だがでははたしてここ十年ばかり、吉永小百合がまともな映画を作ったことがあるのだろうか。小百合様が御年六十九歳にしてたいへん若々しい美人であることを認めるのはやぶさかではない。だが、いくら「年に似合わない美貌」だと言っても、年は年である。いくつになってもヒロイン、それも神聖不可侵な絶対美女ばかりを演じさせられるのはいかがなものなのか。決して老け役にはならず、数十年にわたって時が止まったかのようにヒロインでありつづける小百合様に万国のサユリストははたして満足なのだろうか。だが少なくとも日本一のサユリスト、岡田裕が小百合映画を作りつづけるかぎりはこの状況は続いていくのであろうなあ。

『ふしぎな岬の物語』で小百合さまが演じるのは千葉県は房総半島の岬の突端に立つ〈岬カフェ〉のマダム悦子さん。一杯ずつドリップで入れるコーヒー目当てに多くの人が通ってくる。小百合さまがコーヒーを美味しく淹れる秘訣が

「魔法をかけるの。美味しくなーれ、美味しくなーれ」

 母べえ(限定生産スペシャルプライス) [DVD]  萌え萌えきゅん、かよ! というか冗談抜きで岬に一軒きりのメイド喫茶の常連客よろしく、岬の男たちはみんな「悦ちゃん」に夢中なのである。阿部ちゃんから鶴瓶から笹野高史から全員が吉永小百合に萌え、恋い焦がれる。いくらなんでも阿部ちゃんが小百合様に惚れてるって無理がありすぎだろ! 『母べえ』で浅野忠信が檀れいをふって吉永小百合に純情を捧げるのに匹敵する無理っぷりである。「男は全員小百合様に惚れる」という大前提のせいでどんどん無茶な話になっていくわけだが……

「悦ちゃんは毎朝、不思議な時間を過ごす。まるで夢遊病者のように……俺にはこの人を守ってやる義務がある」とひとりごちる浩司(阿部寛)のモノローグ。浩司は毎朝、離島までボートでわき水を汲みにいく悦ちゃんを手伝う。寺の空き地に掘っ立て小屋を立てて住んでいる(風呂はドラム缶)浩司は「わたしが甘やかしすぎてしまったもので……」と悦ちゃんがもらすように、いい年になっても定職にもつかず「何でも屋」と称して木にあがったネコを救出したり、千葉プロレスのリングに飛び入りで上がったりしている腰の据わらない男。「前科者のオレはこんなところから見守ることしかできないんだ」というのが口癖なのだが、その前科というのが悦ちゃんにからんだ相手を半殺しにした傷害罪。悦ちゃんがらみになるとすぐかっとして暴れ出すのだ。で、てっきり親子なのかと思いきや、周囲はみんな小百合様に惚れてると知っているという設定。でもそう指摘されると、本人は「な、なに言ってるんだ! だいたい悦ちゃんとは血がつながってるじゃないか!」って動揺しまくりながら否定する。どういう関係なんだ? と悩んでいたんだけど、どうやら叔母と甥の関係らしいと後半になって判明する。

一方、小百合さま目当てで毎朝コーヒーを飲みに来る常連客が不動産会社勤務のタニさん(笑福亭鶴瓶)。

「30年間、ここはなんーんもかわらん。ここにおるだけでしあわせなんや」

と小百合様のコーヒーを飲むだけで満足という萌えっぷりを披露する。

 

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tags: カフェ映画 井浦新 加藤正人 吉永小百合 安川午朗 小池栄子 岡田裕 嶋田久作 成島出 木下工務店 森沢明夫 石橋蓮司 竹内結子 笑福亭鶴瓶 笹野高史 阿部寛

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