柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『墨の魔術師』 功成り名遂げた老人は映画を作り<ヤナシタの第一法則>、次に求めるのは若い女に決まっている!<ヤナシタの第二法則> (柳下毅一郎)

公式サイトより

 

墨の魔術師

原作・脚本・監督・主演 金田石城
撮影 村山亮
音楽 RYO(ZERO SPIRAL INFINITY)
出演 青木梨乃、川崎真実、高澤父母道、長村航希、小西良太郎、片岡鶴太郎、紫吹淳

 

 

face 金田石城は「書道界の鬼才」、前衛書道家として知られ、芸能界にも多くのシンパや弟子を持つ有名人だという。そして「功成り名遂げた老人は映画を作る」という法則にしたがって(ちなみにこれはヤナシタの第一法則という)、御年76歳にして映画に監督・主演することとなったのである。巨大な筆を抱えて、大きな和紙に書く書道パフォーマンスの発明者でもあるんだそうで。で、功成り名遂げた老人が次に求めるものと言えば、それは若い女に決まっている!(ヤナシタの第二法則)

 

 

 

 

いずこともしれぬ田舎。山の中の庄屋の家にかついできた魚をおろす女がいる。

「今日は鯛がありました」
「おお、夏代さんはいつもいい魚を持ってきてくれるからなあ」

 というわけでえっちらおっちら山の中まで魚を届け、そのあがりで食っているという夏代(川崎真実)である。てっきり漁港から売りに来てるのかと思ったが、彼女も近くに住んでおり、どうやらわざわざ海まで出かけていって魚を仕入れ、それをまた徒歩で山中の庄屋の家まで届けてお金をもらっているらしい。いったいいつの、どこの話なんだこれは

まったく想像つかないな。家では夏代はシングルマザーとして一人きりの子供を育てている。夏代は元芸者だったが、流産して子供を産めなくなってしまった身。謎の魚の行商で稼いだ金で、先輩芸者の子である少年ヒロシを一人育てているのだった。一方ヒロシは庄屋に迫られたりする母の危機も知らず、飯炊するかまどの墨に狂喜、このころからすでに墨キチの資質を見せていたのだった。

十年後。

いきなり飛ぶなあ。貧乏暮らしをしながら相変わらず憑かれたように習字を書きなぐるヒロシ。ある日母が倒れて末期の胃がんと診断される。ヒロシ、さらに狂ったように書きなぐり、

「母さんだけにぼくの個展を見せてあげるからね」

と病室の壁に習字をベタベタ貼る。だがそんな思いにもかかわらず母が死んでしまうと、ひとりきりの通夜で、ロウソクの光のもと、新聞紙に習字をしては棺に放り込むという鬼気迫る弔いをするヒロシであった。なお、このあたりまったく照明を使っている様子がなくほぼ自然光で真っ暗な中で撮っており、ホラーな雰囲気だけは思いっきり出ていたのであった。

数十年後。

だからアバウトなんだっての! そういうわけで墨キチ少年は成長して書道界に知らぬ者なき名人谷村幻斎(金田石城)となった。だが幻斎先生、最近どうも「墨の色が見えない……」とスランプ気味で、奈良の信貴山玉蔵院から屏風を頼まれるという栄誉を受けても浮かぬ顔。玉蔵院の住職は

「それは煩悩ですなあ」

 

 

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