柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『461個のおべんとう』 また弁当映画! なんで日本映画はこんなに弁当が好きなのか

公式サイトより

461個のおべんとう

監督 兼重淳
原作 渡辺俊美
脚本 清水匡、兼重淳
撮影 向後光徳
主題歌 井ノ原快彦、道枝駿佑
出演 井ノ原快彦、道枝駿佑、森七菜、若林時英、工藤遥、阿部純子、野間口徹、映美くらら、KREVA、やついいちろう、坂井真紀、倍賞千恵子、渡辺俊美

今日も嫌がらせ弁当に続き、また弁当映画! なんで日本映画はこんなに弁当が好きなのか。まあ親子の絆を表現するいちばんわかりやすいブツだと思ってるのかもしれないが、基本的に弁当って親のエゴ、子供への一方的な思いの押しつけでしかないからね。本作でも子供に弁当を作るのは子供との約束を守るためでしかなく、別に子供が作って欲しがっているわけじゃない。ひたすら弁当を作りつづけ、最終的には子供のほうが弁当ファシズムに屈して洗脳されるという筋書きだ。「おかずは素材から手作り」と冷食等を使わないのが自慢らしい本作の弁当も、手もかかっていて見た目も悪くはないが、味においては--卵焼き、肉巻き、鮭の塩焼き--あまりバリエーションがなさそうだった点は指摘しておきたい。

 原作はTOKYO No.1 SOUL SETの渡辺俊美による『461個の弁当は、親父と息子の男の約束』(マガジンハウス)。渡辺俊美、実は2017年に『パパのお弁当は世界一』という映画に主演している。父子家庭のシングルファーザーが、高校に通う娘のために三年間弁当を作りつづけ、そのエピソードを娘がtwitterに投稿したのが話題になって映画化へ……というのだが、これあまりにも『461個のおべんとう』のストーリーそっくりじゃないか!? だがもちろんマガジンハウスから渡辺俊美の本が出たのは2014年のことなのでパクれるわけもなく嘘のような偶然の一致、ポニーキャニオンがtweetをふくらませて映画にする際に弁当マニアとして名高かった渡辺俊美を主演に起用した、というようなことかとも思うのだが、それにしては気味悪いほど都合のいい話で、似たようなエピソードも入ってるし、この不思議な事情につて誰か詳しい人がいればご教示願いたいところである。

まあそういうわけでいつまで続く渡辺俊美の弁当映画ロード、今度はマガジンハウス/博報堂/ジャニーズのあいのりでお届けする。なお、本作で弁当を作るのは父親役の井ノ原快彦、息子に関ジャニJr.の道枝駿佑ということでメガネ男子パラダイスでもあるのでその筋の女性陣にはお勧め、ということにしておこう。

 

 

「これは弁当についての話だ。それ以上でも、それ以下でもない」

……というナレーションではじまる本作、本当に「それ以上でも、以下でもない」んだよ! 父子家庭で父親が高校生の息子に三年間弁当を作る約束をして、それを果たした、それだけの話である。物語にはとりたてて起伏もないし、事件も起きない。そもそもなぜ弁当を作る約束をしたのかもわからない。これ、映画の中では語られないんだが、息子が不登校でダブったとか、そういう理由があるような気がするんだよな。そうじゃなかったら、こんな押しつけを思いつく理由がそもそもない。別に料理男子とかではなく、それまでロクに料理もしたことない父親が一念発起して調理用具から買いこんで弁当を作りはじめるというのである。だが、映画では特に理由が説明されることもなく、主人公は最初から手のこんだ弁当をさくさく作ってしまうので、弁当作りがうまくなっていく面白さもやはりないのだった。

 

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