柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『劇場版 奥様は、取り扱い注意』 コロナ禍で公開がほぼ丸一年遅れ。ここまで時間がたって元ドラマのことを誰も覚えていない状態になってから見せられると、本当に眠気が……

公式サイトより

書籍版シリーズ第8弾
『皆殺し映画通信/地獄へ行くぞ!』
発売中

劇場版 奥様は、取り扱い注意

監督 佐藤東弥
原案 金城一紀
脚本 まなべゆきこ
撮影 柳島克己
音楽 得田真裕
出演 綾瀬はるか、西島秀俊、鈴木浩介、岡田健史、前田敦子、みのすけ、セルゲイ・ブラソフ、鶴見辰吾、六平直政、佐野史郎、檀れい、小日向文世

 

『Mr.&Mrs. スミス』のポスター図版を丸パクリした絵柄でおなじみの夫婦スパイもの。

 

 

夫の西島秀俊が公安部の捜査官、妻の綾瀬はるかが某組織のスパイで、お互い騙しあう……という話ではないんですねこれが。これ、そもそも2017年に日テレ系で放映されたドラマの完結編として作られた劇場版なんですね。ドラマ版のラストは、ただの優しい夫と思われていた西島秀俊が公安の捜査官であり、結婚生活のかたわら元凄腕工作員の綾瀬はるかを監視していたことが明らかになり、二人が銃を向け合うというクリフハンガー的エンディングだったのである。続きは劇場で!と謳って、2020年堂々劇場版公開!のはずがコロナ禍で公開がほぼ丸一年遅れ、出し遅れの証文にもほどがある始末でいまごろようやく公開と相成った。もう誰もドラマのことなんか覚えてないわけで、真面目にスパイ・アクションをやってくれるならそれはそれでありなのでは……と思ったのだが(ドラマ版はもっぱらかわいい奥様が次から次へと降りかかる町内の危機を解決する的なお話だった)、映画の冒頭で銃を向けあった二人は綾瀬はるかを狙う組織の襲撃に巻き込まれるやただちに二人の協力で撃退。ところがたまたま相手の撃った弾が綾瀬はるかの頭をかすって彼女は昏倒、そのまま記憶喪失になってしまう。これ幸いと西島秀俊は綾瀬はるかを連れて日本の端っこ珠海市に引っ込み、熱々の新婚夫婦として生活しながらメタンハイドレートガスをめぐる市を揺るがす陰謀と取り組むことになる。

 

 

綾瀬はるかは記憶喪失! 心は忘れていても体は覚えているとかって『ロング・キス・グッドナイト』みたいなおもろい主婦になるのかと思いきや、完全な記憶喪失のままでいつまでたってもキャベツの千切りは下手なまま。つまり前半は延々ときゃぴきゃぴ家事してるだけのかわいい奥様綾瀬はるかと、その行動をGPSで監視してる西島秀俊というぬるいにもほどがあるホームドラマが続くのである。これ、一年前に見せられてもうんざりしたと思うが、ここまで時間がたって元ドラマのことを誰も覚えていない状態になってから見せられると、本当に、眠気が……

 

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