柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『リボルバー・リリー』 綾瀬はるかのスローなガン・アクション。女性陣の弾は百発百中、バタバタ倒されていく烏合の衆の帝国陸軍。帝国陸軍と日本映画の未来が心配

公式サイトより

リボルバー・リリー

監督 行定勲
脚本 小林達夫、行定勲
撮影 今村圭佑
音楽 半野喜弘
出演 綾瀬はるか、長谷川博己、羽村仁成、シシド・カフカ、古川琴音、清水尋也、ジェシー、佐藤二朗、吹越満、内田朝陽、板尾創路、橋爪功、石橋蓮司、阿部サダヲ、野村萬斎、豊川悦司

 

綾瀬はるかがリボルバー片手の殺し屋を演じるハードボイルド・アクション……と言いたいところだが世にもどんくさい本年の「勿体ぶり映画オブジイヤー」を進呈したい一本。綾瀬はるかのガン・アクションがあまりにスローでびっくりするのだが、なんせ霧の中、棒立ちで突っ立って銃を握った手を突き出してゆっくりと踊るように回る。こんな派手な銃撃戦見たことないよ! 軍隊に追われて壮絶な銃撃戦をくりひろげながら幼い少年を安全な場所へ送り届けるという百万回見た『グロリア』展開なのだが、帝国陸軍の未来も日本映画の未来も心配になる一本なのだった。

 

 

内務省の特務機関所属の秘密工作員小曽根百合(綾瀬はるか)は国内外の要人を50名以上も暗殺した凶悪な暗殺者として恐れられていたがある日忽然と姿を消す。時はくだって1924年、熊谷では謎の男たちが一家を襲い、軒下に隠れていた子供慎太(羽村仁成)一人が生き残る。男たちに追われる慎太は東京行きの鉄道に乗りこむが、そこで追っ手に見つかってしまう。絶体絶命の瞬間、割って入った綾瀬はるかがいきなり車内で棒立ちになって銃撃戦(乗客があまり騒がないのが日本映画らしいというか)の末、少年を救いだし、列車から飛び降りて逃げるのだった。

寡黙で笑わずぶっきらぼうに命令する綾瀬はるかがジーナ・ローランズばりにハードボイルドかというと、まあそこはそれ。検問で少年をとらえようとした兵士をたちまち撃ち倒し(なお、もう殺人はたっぷりやったので、峰打ちというか急所をはずして殺さないように撃っているというのだが、そんなきちんと戦闘不能になる場所を選んで撃てるものなのか、苦しめる分にはかまわないという態度もどうかというか)トラックを奪うが、しばらく走ったところで乗り捨てて森の中を歩く。そこではじめてどこへ行くつもりなのかと少年に訊ねると

「玉ノ井の小曽根百合という人を訪ねろ、とお父さんに言われた」

 それは自分ではないか! と驚く百合。てか驚くのはこっちである。

 

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