柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『少年と犬』 馳星周絶対こんな話書いてないだろ!! 絶妙に日本映画的にウェットでご都合主義な上にスピリチュアル

公式サイトより

少年と犬

監督 瀬々敬久
原作 馳星周
脚本 林民夫
撮影 鍋島淳裕
音楽 小瀬村晶
主題歌 SEKAI NO OWARI
出演 高橋文哉、西野七瀬、伊藤健太郎、伊原六花、江口のりこ、渋川清彦、美保純、眞島秀和、手塚理美、益岡徹、柄本明、斎藤工

 

「少年と犬」! あのハーラン・エリスン先生の畢生の大名作!「少年は犬を愛するものさ」いやもちろんそんなわけはなくて、本作の原作は馳星周先生の直木賞受賞作である連作短編集『少年と犬』(文春文庫)。馳星周だけに当然確信犯でつけたタイトルだと思われ、そのことに関しても一言言いたい気は大いにあるのだがそれはおいといて、見た直後に思ったのはまず最初に「馳星周絶対こんな話書いてないだろ!!」ということで、なんか絶妙に日本映画的にウェットでご都合主義な上にスピリチュアルな話になってしまっているのだった。たぶんどう映画化するかを考えずに映画化権を買ってしまったプロデューサーからの無理難題に応じてこのストーリーをでっちあげることになったのだと思うが、エリスン流に言うなら「なってねえなあ!」。

物語は原作から「男と犬」、「娼婦と犬」、「少年と犬」の三話をとりあげて無理やりブリッジしたもの。どうなってそんなことになるかというと……

 

 

 

 

二〇二五年、兵庫県赤穂市あたりの某所で、バスで「星座の図鑑」を読んでいた少女は隣に座っていた謎の女(西野七瀬)に話しかけられ、停留所で降り過ごしそうになった拍子に本を忘れてしまう。塾が終わると、女は忘れ物を手に塾の前で待っていた。お礼がてらに(小学生が!)焼き肉をおごると、女はなぜ自分がここに来たのかを語りはじめる。それは2011年、日本の北で大災害があった年、悪い人たちがでてきたんです……

東日本大震災直後、和正(高橋文哉)は先輩に誘われ、原発事故の避難区域にこっそり侵入して金目の物をかっさらう火事場泥棒集団のドライバーをやっていた。稼いだ金をアルツハイマーの母の世話をしている姉に渡そうとするが、まともな金でないとわかっている姉は受け取ろうとしない。帰り道、たまたま寄ったコンビニの前で、放浪している野良犬を見かける。人懐っこいシェパードには「多聞」のネームタグがついている。そのままだと保健所送りになると教えられた和正はシェパードを泥棒集団のアジトに連れ帰る。犬はいつも南の方を見ているのだった。

シェパードを連れて家に戻ると、アルツハイマーだった母は急に元気を取り戻し、犬を「カイト」と呼んで一緒に散歩に出かける。和正は自分が許されたような気になったのだ。だが、海外からの窃盗団の運転手をつとめたとき、先方の仲間割れに巻き込まれ、車の事故を起こしてしまう。多聞は強盗団の女に連れ去られてしまった。

二年後、滋賀県。山中で美羽(西野七瀬)が一心不乱に何かを埋めていると、どこからともなくシェパードがあらわれる。思わずスコップを振りあげかける美羽だったが、犬のつぶらな瞳を見て手から力が抜ける。怪我をしている犬を獣医に連れてゆくと、チップが入っており、岩手県で飼われていた「多聞」だったと判明する。だが美羽はなぜか勝手に「レオ」と名をつけ、一緒に遊び写真をインスタグラムに上げまくる。このシーン、唐突にマルチスクリーンになるのだがその意味がわからないし登場場面であんな恐ろしげなことしてたことなど完全に忘れてはしゃぎまわってるしで、どう見たらいいのかさっぱりわからなかった。

美羽はデリヘル嬢で辛そうなセックスをしながら金を稼いでいるが、大男から恋人ハルヤの借金を返せと迫られている。美羽は関係ないからと突っぱね、行方不明になっているハルヤからは連絡がないのだと告げる。あーということは登場場面で埋めてたのは……というところでレオ(多聞)が病気になってしまい、あわてて獣医に連れて行こうとする美羽。だがそこにあらわれた謎の男

「やっぱり多聞か~」

 

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