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【CS2023-24セミファイナル】ファイナル進出は叶わずも、名古屋Dの力を証明した歴史的なシーズンに

中東泰斗はひざに手をつき、下を向いて泣いていた。齋藤拓実は3Qに負傷した左足を引きずってコート中央へ歩を進めながら、シャツの裾で何度も目頭を押さえた。 

ほとんどの選手が茫然自失する中、須田侑太郎は笑顔でチームメイト一人ひとりに声をかけていた。当然、悔しさはあるだろう。しかし、曇りのない、清々しい表情をしていた。

 

20日、名古屋ダイヤモンドドルフィンズは日本生命 B.LEAGUE CHAMPIONSHIP 2023-24セミファイナルの第戦で広島ドラゴンフライズに73-79で惜敗。真っ赤に染まったドルフィンズアリーナでエポックメイキングなシーズンを終えた。

「今日の結果を受け止めるのは難しいし、悔しいです。でも清々しく、満足感もあり、自分の心がどこにも触れることもなく真ん中にある状態です。今シーズンも色々なことがありましたけど、みんなで乗り越えて乗り越えて、地区優勝というドルフィンズとして初めてのタイトルを獲れたり、チャンピオンシップをドルアリでステージ開催できたり、初めてのことをいろいろとつかみ取れた。そういう部分では満足感があります」

試合後の会見で須田は、「どこにも触れることもなく真ん中にある状態」という独特な表現で心境を語った。全力を出し切った者にしかたどり着けない境地なのだろう。

 

昨夏のFIBAワールドカップ2023。大会直前に本大会12名のメンバーから落選するという悔しさを味わった須田は、自らを進化させるためにキャプテンに志願。「圧倒的なリーダーシップを獲得する」と覚悟を持って今シーズンに臨んだ。そして須田は自らに課した責任を全うした。

「結果が出ない時期やチームがバラバラになりそうな時は、先頭を切って引っ張ってきた自負があります。でも、シーズンが終盤になるにつれて、今日の試合もそうですが、僕がキャプテンとしてやることが何もなくなってきました。それがとても嬉しいんです。

みんながいい顔をしてバスケットをしていて、ハーフタイムのロッカールームでもいろんな選手から声が上がる。チームとして本当にタフになったし、ドルフィンズというチームの形を作れたことに誇りを持っています」

確かにシーズンが深まるほどに、激しく手を叩いてチームを鼓舞する須田の姿を見る回数は減ってきたように感じていた。須田はその状況を「いいことだ」と話す。

 

 

須田の本気が伝播したのはチームだけではない。今シーズンのドルフィンズアリーナの平均入場者数は5190名。アリーナの盛り上がりでも強入りを果たした。ドルファミの声も試合を重ねるごとに大きくなり、この日も試合開始前から身体に響くような大声援で選手を後押しし続けた。終盤の地鳴りのようなディフェンスコールは、アリーナだけでなく、選手の心をも震わせたことだろう。

「今日も今シーズンで一番すごいディフェンスコールを感じながらプレーできました。選手冥利に尽きると言いますか、本当に幸せを噛み締めながら毎試合プレーしていました。

そういうところも含めて、ドルフィンズというクラブとして多くのものを手に入れることができたシーズンになりました。そこに選手として貢献できたことはすごく幸せなことだと思っています」(須田)

須田がドルファミの変化を感じたのは、昨シーズン月にパークアリーナ小牧で行われた大阪エヴェッサ戦だったという。ケガ人が相次ぐ中、出場選手人で戦い、二桁ビハインドから最終盤で逆転勝利を収めた試合だ。

「僕は感極まって泣いたんですが、ファンの皆さんも泣いてくださって。ファンの方を巻き込めたと初めて感じました。そういう光景は今まで見たことがありませんでしたし、ファンの方だけではなく、選手やフロントスタッフも、みんなの心を動かせた実感がありました」

 


 

40年間バスケットボールに携わってきた名将、ショーン・デニスヘッドコーチは、ドルファミも「世界一のファン」と称える。「バスケットボールファンが観たいと思うブランドを作り上げることができました。うちのファンの場合は、チームと一緒に戦っているような雰囲気があります」と感謝する。 

構築してきたカルチャーは、年目に大きく花開いた。「本当に残念な結果で、今は心が痛いですが、これまで成し遂げてきたことに誇りを持っています。初の地区優勝、初のセミファイナル進出、平均入場者数位を達成するなど、年間という短い期間でクラブ全体がだいぶ前に進んでいます。それを心に留めて、さらに前進していきたい。このまま進めば、チャンピオンになれる日が来ると信じています」(デニスHC

過去シーズンの悔しさを今シーズンの躍進につなげたように、この痛みを次の成長に変えていく。その土壌は、既に出来上がっている。

 

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