過去最高の2,924名が楽しんだ、シーホース三河「ファンフェス2023-24」の舞台裏
変装した選手が観客席に紛れる「かくれんぼ対決」。三輪車に乗った身長2メートル超の選手を子どもたちが引っ張るなど、選手とファン・ブースターが協力してバトンを繋ぐ「選手と一緒にメドレーリレー」。兄弟対決やチームスタッフのプレーも見られた「ガチバスケ対決」など……。あっという間に2時間が過ぎた。
シーホース三河(以下、三河)がシーズン終了後に共に戦ったファン・ブースターへの感謝を込めて開催するイベント「ファンフェス」。6月1日に岡崎中央総合公園 総合体育館で開催された今年のファンフェスは、例年以上に盛り上がっているように見えた。
その印象は、筆者の主観ではなかった。聞けば、三河が毎年実施している参加者アンケートは、満足度(満足、大満足と答えた回答者)が昨年よりも増加したという。
三河はどのようにしてファンフェスの満足度を高めることに成功したのか? ブースタークラブ担当の國枝亜希子さんと演出担当の福澤孝さんに、その舞台裏を聞いた。

左)福澤さん 右)國枝さん
前年のファン・ブースターの声を生かして、4つの方針を決定
ファンフェスの準備は、シーズンが佳境に差し掛かった3月から進められた。前年度の満足度調査を振り返り、今年のコンセプトを固めることから着手した。
「実は2022-23シーズンのファンフェスは、満足度調査の結果が前年比でダウンしていました。選手が私服でポーズをとる『ポージングバトル』や苦いお茶を飲んでいること隠して演技する『ミカデミー賞』など、企画をやや攻め過ぎてしまったことが影響したのかもしれません」(福澤さん)
①「選手ってやっぱりすごい!かっこいい!」が感じられる
② 普段と違う一面が見られる、普段聞けない内面的な話を聞ける
③ ファン・ブースターと選手がふれあう機会を増やす
④ 選手も楽しめる企画
バスケの試合と同様に4つのクォーターに分けて実施するスタイルは前年度から継続。各クォーターでどんな企画を実施するか、4人のプロジェクトメンバーは思いつくままにアイデアを出し合った。
「國枝さんを含むブースタークラブ担当の3人全員は、今年が初めてのファンフェスでした。昨年までは長年同じようなメンバーで企画を決めていたため、アイデアが固定化されてしまうという課題がありましたが、今回は女性や20代のスタッフの視点が増えたことで企画の幅が広がりました」
新たに加わったメンバーから過去の経緯にとらわれないまっさらな意見が出たことで、福澤さんも新鮮な気持ちで取り組めたと振り返る。
アンケートで最も好評だった「かくれんぼ対決」を発案したのは國枝さんだった。
「他のチームや他スポーツのファン感謝イベントをリサーチしたり、自分自身の推し活の経験を生かしたりしながら、アイデアを出しました。選手とふれあえる機会を増やしたいと思っても、コート内で行う企画の参加人数にはどうしても限界があります。ですが、選手が観客席に座る形であれば、より多くの方にその機会を提供できます。『近くに来てくれるかも?』というドキドキも感じてもらえる。特に今回は会場が広くなったので、コートから距離が遠い2階席の方にもより楽しんでいただける必要性を感じていました」
担当者の趣味趣向ではなく、客観的な評価軸で企画を選定
4人で出し合った30近いアイデアの中からどれを実施するのか。絞り込むプロセスも実に三河らしい。担当者の趣味趣向に左右されず、客観的な視点で評価をするため、QC(Quality Control:品質管理)のような手法を取り入れたそうだ。
評価の基準にしたのは、前述の4つの方針のうち、お客さま満足に関する①〜③の3項目と、選手負担、準備負担、コストといった運用に関わる3項目。4人がそれぞれの企画を6つの観点で採点し、合計点の高い企画を各クォーターに割り振った。
この構成をベースに、ホームゲームの演出を手掛けるスタッフが企画を具体化。その過程で、例えばスキルズチャレンジに「ファンの方や相手の選手がコーンになったら面白そう」という選手の意見を取り入れることもあったという。
そうして、「ファン・ブースターに楽しんでほしい」とフロントスタッフとチームが一緒になって作り上げたのが、以下のプログラムだ。
第1Q ガチで解答!Q&A (方針②普段聞けない内面的な話を聞ける)
第2Q 借り物競争&かくれんぼ対決(方針③ファン・ブースターと選手がふれあう機会を増やす)
第3Q 選手と一緒にメドレーリレー (方針②普段と違う一面が見られる、方針③ファン・ブースターと選手がふれあう機会を増やす)
第4Q ガチバスケ対決(スキルズチャレンジ+ 5対5) (方針①「選手ってやっぱりすごい!かっこいい!」が感じられる、方針③ファン・ブースターと選手がふれあう機会を増やす)
選手・チームスタッフの理解度の高さも成功の鍵に
当日、選手が高い“遂行力”を発揮したことも大きかったと國枝さんは感謝する。「選手が私たちの企画意図をしっかりと汲み取って、想定した以上の動きやお客さまにより楽しんでいただけるファンサービスをしてくれたこともアンケートの満足度調査の結果が高くなった要因のひとつだと思います」。
選手の華麗な“プレー”は、事前の準備によって引き出されたと福澤さんは明かす。
「当日の午前中に行ったリハーサルでは選手と一緒に動きながら全体の流れを説明しました。そこで強調したのは、4つの方針を共有することです。『なぜこのイベントを行うのか』『各企画でファン・ブースターにどう感じてもらいたいのか』。企画の背景を選手に理解してもらうことに努めました。
一例を挙げると、西田兄弟のスキルズチャレンジについては、『秒数は気にせず、普段2人がコートで出しているスキルをファンの方に間近で味わってもらえるよう魅せてほしい』と伝えました。そこから先は選手が自由に考えて、ファン・ブースターを楽しませたいという気持ちを表現してくれました」
今年初めてクォーターごとに起用したサブMCで、 石井講祐選手が持ち前のウィットに富んだトークでチームメイトの面白さを引き出せば、西田優大選手が自身のニックネームである「おでんくん」のタオルをまとってスキルズチャレンジに登場。最後の5対5では、ライアン・リッチマンヘッドコーチが最も長い時間プレーし、選手・チームスタッフ全員がコートに立った。全員が高い“戦術理解度”でそれぞれの役割を果たし、ファン・ブースターへの感謝の気持ちを最大限に表現した。
ファンフェス2023-24には過去最高となる2,924名が来場。「最後にバスケをする姿が見られてよかった」「リラックスした選手の姿が見られた」「かくれんぼや借り物競走など選手が客席に来てくれる企画があって楽しめた」「選手、チームスタッフの皆さんが楽しそうにプレーしていて、見ている私たちも楽しかった」など4つの方針に対する好意的な声が多数を占めた。
3年ぶりのチャンピオンシップ出場を果たしたシーズンは、たくさんの笑顔とともに締め括られた。
ファンフェスの課題は2024-25シーズンに生かす
チームはオフシーズンに入り、次なる戦いに向けて心身を休めているところだが、フロントスタッフはオフシーズンこそ忙しい。
「今年のファンフェスについて、全体的には温かい声を多くいただいたのですが、改善してほしいというご意見もまだまだあります。そうした声は、来年のファンフェスに生かすだけではなく、ブースタークラブ全体の満足度向上につなげるヒントにしていきたいと考えています」(福澤さん)
2024-25シーズンはメインのホームゲーム会場が、最大収容人数が約2,000名の刈谷市体育館になる。
「どうしてもチケットが取りづらくなりますので、ブースタークラブ会員の皆さまが試合会場に来られなかったり、サイン会や撮影会などのイベントに参加できる回数も減ってしまったりすることが想定されます。その状況でどのように喜んでいただくか頭を悩ませているところです」(國枝さん)
ホームゲームの価値を高めることに注力してきた三河にとって、これまでにない厳しいのシーズンとなるが、そんな時こそ「カイゼン力」と「ホスピタリティ」の見せどころだ。きっと、今回のファンフェスのように、フロントとチームが一丸となって、ファン・ブースターを楽しませてくれることだろう。