”次の10年”のためにも、日本一になってMVPを獲りたい━━片山雄貴(Honda熊本)
2021年都市対抗、そして昨年の日本選手権で準優勝。2022年からは2年連続で年間最多勝利投手賞にも輝いた、社会人球界トップクラスの右腕・片山雄貴。
最速150㌔のストレートに加えカーブ、スライダー、カット、ツーシーム、フォーク、チェンジアップと多彩な変化球を操る。
昨年は社会人日本代表としてアジア大会に出場。念願だった国際舞台も経験したチームの大黒柱だが、今回の日本選手権予選では最後の切符をかけた第2代表決定戦でようやく先発マウンドへ。渡辺正健監督から全幅の信頼を寄せられ、満を持しての登板だったが、本人には一抹の不安があった。
「今までは毎試合投げていくうちに、自分の中で“こうすれば大丈夫”という流れができていました。今回はそうではなくて、本当に最後の一発勝負でしたからね。“ここでチームを勝たせなきゃ”という責任を感じながらも、果たしてこの状況で自分のピッチングができるのかという不安がありました。予選は何が起こるか分からないし、ましてや相手は初の全国に王手をかけて勢いに乗っているエナジックさんです。野球の怖さは重々理解しているつもりなので、警戒は高めていました」
しかし、そこはさすがに百戦錬磨のエースだ。この試合で初めて解禁したチェンジアップとキレの良いストレートとの緩急で相手打線を翻弄し、7安打2失点の危なげない投球を展開。9回完投でチームに京セラドーム大阪行きの切符をもたらしたのだった。
Honda熊本は今年、10年連続での都市対抗出場が見えてきた中で、予選敗退に終わった。夏を落としてしまったという事実も、片山には少なからずプレッシャーになった。
「職場に顔を出した時に、従業員の方から『日本選手権は頼んだよ』という声もたくさんいただきました。だからこそ、絶対に代表権を獲らなきゃいけない大会だったのです。普段から皆さんが一生懸命働いてくださっている中で、僕らはこうして野球をさせていただいている。それだけに、プレッシャーがより大きくなりました。でも、プレッシャーを感じながらも“これが社会人野球だな”とあらためて感じることができた時間でもありました」
忘れかけていた感覚を取り戻したと片山は言った。最近は九州で勝って当たり前、全国に行って当たり前という状況が続いていただけに、夏の予選敗退は現実に立ち戻る貴重な時間でもあった。
そして、再びチームは前進を開始する。
「ここから次の10年連続を達成するために、まずは日本選手権の代表を獲れて本当に良かったです」
昨年の日本選手権は準優勝に終わった。Honda熊本にとって、もはや2大大会での準優勝は「躍進」や「快挙」ではなくなっている。
「打線が先に点を取ってくれるので、それ以上に取られないようにすることですね。でも、自分がゼロで抑えれば絶対に負けないと思っています。チームを日本一に導いて、MVPを獲りたいですね。ここまでは準優勝の敢闘賞ばかりなので(笑)」
3度目の正直へ向けて、強気に決意表明を行った片山。その右腕は、すでに目の前に翻るダイヤモンド旗に手をかけている。
◆Profile
片山 雄貴(かたやま・ゆうき)
1993年8月8日、福岡県
1998年3月10日、佐賀県糟屋郡出身。福岡工大城東~駒大~Honda鈴鹿。179㌢、79㌔。右投右打。中学時代は東須江中の軟式野球部。高校は福岡工大城東でプレーし3年春に九州大会4強入りを果たす。駒大では3年秋に明治神宮大会優勝。Honda鈴鹿から転籍したHonda熊本では2021年に都市対抗準優勝に貢献し久慈賞を受賞。22、23年には2年連続で年間最多勝利投手賞に輝き、23年には日本選手権準優勝で敢闘賞を受賞した。23年アジア大会の日本代表にも選ばれ銅メダルを獲得している。