松沢呉一のビバノン・ライフ

ムカデによる死者は事実だった—ムカデと五寸釘 2-[ビバノン循環湯 168] (松沢呉一) -4,131文字-

僕はどうしたらいいんだい?—ムカデと五寸釘 1」の続きです。

 

 

 

コーンコーン

 

vivanon_sentenceムカデによる死と巨大ムカデは太郎君に強烈な恐怖を植え付けたが、かといって、そんなことで一家が引っ越すこともできず、太郎君はつい最近までその村に住んでいた。

「うちから歩いて四十分くらいのところに友だちが住んでいて、そこから帰るのに、神社の中を通ると近道なんです。アニキの同級生が死んだ事件以来、その神社が怖くて、小さい頃は一人では入れなかったんですけど、さすがに大人になってからは怖いってことはなくなって、夜でも中を通っていました」

そして、今から二年前のこと。

「初夏の蒸し暑い日でした。深夜二時を過ぎた頃、いつものように友だちの家で飲んだあと、その神社を通りかかりました」

境内を歩いていたら、遠くからコーンコーンと木を叩く音が聞こえてくる。彼はその音に惹き付けられるようにそっと近づいていった。

「あとで考えると、戻ればよかったんですけど、そこが通り道なんです。ホラー映画で、わざわざ危険な方に向かっていく女がいるじゃないですか。危険かどうかなんてわかるはずがないですから、ちょうどあんなカンジで音のする方に行ってみたんですよ」

この神社の境内には杉の木が生えている。中でも大きな杉の木が何本かあって、月の光に、高い杉の木が照らし出されている。

その手前に女の後ろ姿が見えた。女だとわかったのは髪の毛が長く伸びていたためだ。

「こんな時間に何をしているんだろう」

太郎君はさらに忍び足で近づき、二十メートルほど離れたところで立ち止まって目をこらした。女は何かを木に叩き付けていて、その音がしていたのだ。

コーンコーン

「見てはいけないものを見てしまったと直感的に悟って、そこから立ち去ろうと思ったんですが、ここでもホラー映画にあるのと同じように、足を動かした途端に、足下の砂利が音をたててしまいました」

 

 

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