虚飾のお見合いパーティと噓のない性風俗-[ビバノン循環湯 213] (松沢呉一) -2,759文字-
たいした話ではないので、十年以上前に書いたまま未発表になっていて、一昨年だったかに、メルマガ購読者限定のevernoteで初公開したもの。
お見合いパーティに社員がサクラで参加
仲のいいヘルス店に入ってきた新人従業員は、人当たりがよく、風俗店向き。
彼はこの直前まで「インチキなイベント屋」(本人の言葉)で働いていた。
この会社は金になりそうなことにはなんでも手を出す。内容を聞くと、ホントにインチキなんである。
この会社がやっていたのは、たとえばお見合いパーティ。お見合いパーティはさまざまな会社が企画しているため、後発組は内容を特化したものを企画する。
ここがやっていたのは、医師や歯科医師の男と、玉の輿を狙う女のお見合いパーティである。
しかし、これもまたとっくに他社がやっているため、男は参加無料にしても、その会社ではなかなか医師や歯科医を集められず、二十人ほどの参加者のうち、四割はサクラだったという。
「金を払ってサクラを集めるのはもったいないので、知り合いに頼んだり、社員がサクラをやるんですよ。僕も毎回医者のフリして参加してましたよ」
「でも、病院名や出身大学名、専門を聞かれたりするでしょ」
「適当に答えてましたよ」
「バレたらまずいじゃないか」
「バレないです。看護婦だとか歯科衛生士とか、医療現場で働いている人たちは金を払ってまで見合いに来ないですから、見合いに来ている女の人たちは医学の知識なんてありませんよ。見合いに来るのは、ただ医者というブランドや地位に興味があるだけで、医療に興味があるわけではないんです」
それもそうか。近隣に医者がいるなら、それを狙えばいいし、接点があると、かえって医者を敬遠するのも多そうだ。
※図版は大手お見合いパーティ「エクシオ」のサイトより。もちろん、本文とは関係がなく、ネットの評判を見ても、ここはしっかりしているよう。
結婚まで至ったのはおそらくゼロ
この話が面白くて、客が来ないのをいいことに私は店の入口で彼の話をさらに聞いた。
「でも、参加者は、サクラだなんて思っていないんだから、サクラに迫る参加者もいるでしょ」
「いますね。でも、バレないとしても、ウソをつき続けるのが辛くて、僕は毎回酔っぱらってすぐにヘベレケになってましたから、全然モテませんでしたね。モテたら困りますから、それでいいんです。でも、女の方は有料なのに、けっこうきれいな人がいましたよ」
「サクラの男がそういう人に迫って、あとでバレたらまずいので、見るだけか」
「迫るわけがないですよ。仕事としてまずいだけじゃなくて、いくらきれいでも、医者と結婚したいなんて下心見え見えの女はイヤじゃないですか。女性不信になりましたね」
人を騙しているヤツが言っていいセリフではないけれど。
「でも、六割は本物の医者なんだから、良心的とも言えるか」
「それもいろいろで、知り合いのツテで、結婚している人にまで来てもらっていました。独身でも面白がってきているだけの人もいましたから、本気で結婚相手を探している医者は数名でしょう」
「じゃあ、結婚するのはいなかったのか」
「女性たちから参加費用を集めることだけが目的ですから、見合いをやったらそれっきりです。そのあとのことまでケアをしてませんから、結婚していたとしてもわからない。でも、たぶん結婚まで至ったのは一人もいなかったんじゃないですかね」
「ひどいな」
「ホントにひどいんです」
彼は自信をもってそう断言した。
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