松沢呉一のビバノン・ライフ

24時間労働の風俗嬢—貢いだ果てに 上-[ビバノン循環湯 293] (松沢呉一) -3,054文字-

どこに出した原稿か不明ですが、10年以上前のものです。

こういう話を出すと、大喜びで「だから性風俗は」とバッシングに利用したがるハイエナのような連中がいるので、不用意には出せないんですよね。

よく読んでいただきたいのですが、ここに出てくる店は、「チンピラに金を貢いでいる女」をそうとは知らずに雇い入れていただけです。もちろん、そう仕向けたわけはなく、それがわかってから社長は別れさせようともしました。しかし、彼女がそれを受け入れませんでした。客の前で寝るようなことを続けてやらかしても、彼女がかわいそうで、なお社長は雇い続けていたのですから、私から見ると、「甘い人」にも見えます。

この社長の判断が至極まっとうであることは、普通の会社で考えればわかります。女性社員の配偶者がヤクザで、顔に殴られた跡をつけて出社し、仕事中に居眠りをするなどして業務に支障を来した場合、上司や人事担当はその事情を聴取して相談に乗ることはしましょうし、本人が望めば離婚のための弁護士を紹介したり、カウンセラーを紹介することもあるでしょうが、本人がそれを望まなければ私生活には介入できない。あとは業務に支障を来した部分を取り出して処分をするまで。

社員が仕事のあと、酔っぱらって傷害事件を起こした場合、逮捕されて無断欠勤したことをもって処分されたり、社名までが報道されることによって会社に迷惑をかけたということで処分されることがありますけど、それ自体で処分するのは不当です。会社が勤務以外の私生活に介入すべきではないですから。

極々当たり前の対応をしても、性風俗では、こういう場合でも店のせいにしたがる人たちがいるわけです。困ったことに、こういうタイプは、自身の責任から回避するので、最後に切羽詰まって婦人相談所に行って、「店に24時間労働を強いられたんです。男に金をむしりとられていることを社長に言ったのに何もしてくれず、私が体を壊したことを知ったら、店にいられないようにされました」と泣いたりします。ここぞとばかりにハイエナたちは、店のせい、性風俗のせいにしつつ、果ては相談者の情報を垂れ流し、本にして印税稼ぎに利用するのですから、どれだけ悪辣か。

写真はいつものように本文には関係ありません。

Workshop of Jean-Baptiste Carpeaux「La Négresse」 縛られた奴隷です。

 

 

 

休みなしの16時間出勤

 

vivanon_sentenceどこかの店で会っていた風俗嬢と、別の店で会った経験を今までに何度か書いている。あちらから連絡をくれて再会することもあれば、まったくの偶然のこともあるが、よっほどイヤな相手じゃなければ嬉しいものである。

しかし、今回は「どっかの店で会っていないコと、別の店でも会わなかった話」である。一度も会ってないってことなのだが、会ってもないのに、これだけ人を不快にする存在はなかなかいないだろう。

五反田にあるホテルヘルスの社長と話している時に、こんな話を聞いた。

「僕はヤクザの男がついているような女は雇いたくないんですよ」

だいたいの店はそういうもの。何かあると男が出てきて金を要求してくる。その男の存在をほのめかして店や他の女のコらを威圧する女もいる。

私が店をやっていても、それがわかったら雇わないと思う。

しかし、男に金を渡すため、こういうタイプは真面目に働く傾向もあって、敬遠するどころか歓迎する店があるのも事実。

「でも、そういう女は結局長持ちしませんよ。以前、うちにもいたんですよ。そんなこととは知らずに雇ったんですけど、僕はあれで懲りましたね。九州から出てきた女で、170センチあってスタイルがよくて、顔もきれい。性格も素直で、言うことなしだと思ったんですけど、どうもおかしいんですよ」

彼女は毎日オープンからラストまで通しで働かせて欲しいと申し出た。

「休みなし?」

「なしです。週7日出勤ですよ」

「それでオープンラスト?」

「そうです。朝10時から夜2時までの16時間労働ですよ」

この段階で異常である。

「おかしいなと思ったんですけど、人が足りない時期だったし、彼女なら人気が出るだろうから、希望通りにしましたよ」

 

 

16時間労働のあとの労働

 

vivanon_sentence家にいてもやることがなく、遊びに行くと金が出ていくだけ、だったら店にいた方がまだいいというので、休みなしの出勤をするのはたまにいるが、早番なり遅番なりをやるだけ。また、「人が足りない」「すぐに金が必要」といった事情から、短期でオープンからラストまでの出勤をするのもいるが、恒常的にこんな出勤をするのは聞いたことがない。

「でも、うちは当時そんなには忙しくなかったから、それだけなら、できないことはないと思うんですよ」

「それだけなら? どういう意味?」

 

 

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