読解力が劣化しているとは言えないが、情報は確実に劣化する—本当に児童生徒の読解力は落ちているのか?[3]-(松沢呉一) -3,007文字-
「解決法は落ち着くこと(笑)—本当に児童生徒の読解力は落ちているのか?[2]」の続きです。
取り扱い注意の調査
このシリーズで、「児童生徒の読解力が低下している」とする風潮を作り出している調査を取り上げるに当たって、他に批判的に扱っている人がいるかどうか事前に確認してません。私にはよくあることです。批判している人がいっぱいいるなら、「私が重ねて批判しなくていいや」とやる気がなくなるし、影響されるのもイヤなので、こういう時は自分の論旨がだいたいできあがってから確認です。
で、確認したら、私と同様の批判をしている人はいるにはいました。
以下の指摘。
この文章を読むには「酵素」の知識が少し必要です。「知識がなくても問題が解ける」という前提の読解力テストですので、知識が前提になっているのでは都合が悪いです。
これは私が挙げたのとはまた別の設問についてです。こういう設問が少なからずあるわけです。わずかに公開された設問にこうも知識が影響するのがあるのだから、だいたいがそうだと思っていいのではなかろうか。
このブログには「読解テストの問題文が少し悪い」とありますが、これが一人歩きしている現状を見ると、「相当悪い」と言うべきかもしれない。
でも、批判しているのはこのくらいしか見当たりませんでした。こうなると、今度は「ワシは間違っているのかも」と不安になってくるものです。
実際、自分の書いていることに全然自信はないのですが、「国立情報学研究所の新井紀子教授らの調査は慎重に扱った方がいい」と強調しておきたい。
私も文章読解力が落ちている可能性について否定する根拠を持たないですが、だからといってこの調査でそれが裏付けられたとはとうてい言えません。
相関関係がないとされているのに、スマホやパソコン、インターネット悪玉論の根拠にされたり、出版界は「もっと本を読もう」とのキャンペーンに利用しそうです。読む姿勢に原因があるだけかもしれないのに、その点が見えなくなります。
その好ましくない流れがすでにできています。
いつの間にか形成されていく世論
この調査は比較対照するものがないのですから、わかっているのは今現在読解力のない可能性のある生徒が一定数いるというところに留まっています。調査をした国立情報学研究所の新井紀子教授はそれ以上のところに踏み込む発言をしていますが、その可能性を示唆しているだけです。それが確定的な事実のような扱いになっていく。
「朝日新聞」や「日経新聞」では「中高生の読解力がピンチ」と見出しに書いています。半世紀前と読解力が変わっていなければこういう表現はしませんから、「悪化、劣化、低下している」という意味が込められています。
また、「読売新聞」では他の証言などを加えて、やはり低下しているという方向の記事になってしまっていて、スマホやネットが原因であるかのように読めます。
正答率の低さをもって、注釈なしに「多い」としてしまうことも誤読を招きます。この数字はテスト方法によって多くなってしまった可能性が高い。もっとはっきり言うと、誤読が増えることが予想できる条件で行われているのてす。
これについてはAIとの比較のためと書きましたが、それよりも誤答のサンプルを数多く集めたかったのではなかろうか。誤答が十個では分析しようがないですが、千個になると、どういう文章を読み間違えるのかの傾向を見出せます。
しかし、これは通常あまりない試験の条件ですから、誤答の傾向は分析できても、その数字がそのまま「試験問題を読めない生徒の数」にはなりません。教科書を理解できない生徒との相関関係はありそうですが、通常の環境化では問題なく読めている生徒も誤答をしている可能性が高いのです。
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