松沢呉一のビバノン・ライフ

セックスと虚言—ウソをつかないではいられない人々[下]-(松沢呉一) -2,787文字-

ネーム・ドロッピングと虚言—ウソをつかないではいられない人々[中]」の続きです。

 

 

 

紹介しましょうか

 

vivanon_sentenceネーム・ドロッパーは「誰々と知り合い」と言いたがるわけですが、この時によく出るフレーズがこのブログに書かれています。この人は安易に人を紹介することの問題にポイントを置いていますが、たしかにネーム・ドロッパーは「紹介しようか」と言うのが大好きです。

「顔の広い、親切な人」ならいいのですが、そう名乗り出る必然性がないところでも名乗りをする人がネーム・ドロッパーの特徴です。チャンスを逃さない。

たとえば村上春樹の作品について論じているとしましょう。ここで「春樹さんも私生活はいろいろありますから」なんてボロっと言う。作品を論じているのだから、本人のことはどうでもいいにもかかわらず。

「えっ、知り合いなの」と食いつくのがいると、「紹介しましょうか」と言い出す。ネーム・ドロッパーにとっては、その人と知り合いである自分のアピールこそに意味があって、親切とは違うのです。「紹介できる私」が主題です。

Wikipediaに「内面が希薄であり、アイデンティティの確立が弱い」とあったように、こういう人は中味を論じることで自分をアピールすることができない人だったりしますから、事実、その人と知り合いだったとしても、本人は紹介者になる以上には役に立たない。いずれはそこが見抜かれてしまうのが不幸です。

「春樹さん」とあたかも親密であるかのように装うところがまたネーム・ドロッパーらしさです。英語版Wikipediaでもファーストネームを言うことが指摘されています。あるいはあだ名で呼んだり、他の人が知らない本名で呼んだりする。

その顕著な例が「忘年会の夜は更け—酒に薬物を入れられた? 上」に出てくるHです。意味なく著名人の名前を親しげに出してくる。

Hについては確認していないですが、その場では知人であることは黙っていて、あとで本人に確認したところ(性格が悪い)、相手は認知さえしていなかったことがあります。おそらくまったくの虚偽というわけではなくて、どこかのパーティか何かで話しただけで「知り合い」「友だち」になっているのでしょう。

ザ・ネーム・ドロッパーズなんてバンドもあります。

 

 

セックス方面のネーム・ドロッパー

 

vivanon_sentenceWikipediaの演技性パーソナリティ障害の項に性的な側面が書かれていますが、人格障害に至らずとも、ネーム・ドロッパーのヴァージョンとして、「セックスした著名人のことを吹聴する」タイプがいます。

実際にセックスをしていて、堂々とそのことを吹聴するのはただの自慢ですが、それをほのめかすのがネーム・ドロップであり、時にウソが入ります。「呉一さんと朝までいたんだけど、あの人ってしつこいの」みたいな。誰も「すげえ」と思わないですから、ドロップする効果は微塵たりともないですけど、こういうほのめかしに食いつくと、「これ、言ってもいいのかなあ。誰にも言わないでね」とどんどん出てきます。自分が注目されている幸せな時間です。

 

 

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