落とし物、忘れ物に注意—エロの仕事がバレた時(1)-[ビバノン循環湯 372] (松沢呉一)-3,951文字-
「エロ話の注意点—ヘルス嬢たちの女子会(2)」に出てくる朝ちゃんとの後日談が出てくる原稿です。一部はネットで公開し、あとは全部未発表のメモをまとめてメルマガ読者用にEVERNOTEで公開。ほとんどは2000年代初頭のもの。性風俗で働いていることが夫にバレたり、彼氏にバレた話はこれまでにも多数書いていますし、学校にバレたケースも書いてますが、ここではもっぱら親や兄弟姉妹にバレた時の話です。枕のふたつは私の話ですが。
落ちた写真
電車に乗り込み、シートに腰掛けて、本を開いた。その時、本に挟まっていたものがスルリと床に落ちたことを私は気づいていなかった。
そこからふた駅を過ぎ、次の駅で乗り換えのために本を閉じた時、ようやく床に落ちたものに気づいた。雑誌の連載に添える写真で、これから編集部にもっていこうとしていたものだ。
そこには昨年の忘年会で、アナル部長と呼ばれる編集長が、エロモデルのパンティの中に手を入れてニヤついている様子がはっきりと写っている。
私は慌ててその写真を拾い上げて本にはさんだ。前を見たら、正面に座っていた女性が冷笑していて、マゾ心が刺激されてチンコから液を吹き出しそうに…いや、恥ずかしくて顔から火が吹き出しそうになった。
左右にも人が座っていて、彼らも写真が落ちたのに気づきながら、注意することもできず、そっとしておくしかないと思ったのだろう。
「いや、違うんだ、オレの話を聞いてくれ。オレは写真を撮っただけだ。チンコやケツを出したし、モデルの乳首をつまんだりもしていたが、股間に手を入れているこの人はオレじゃなくてアナル部長なんだ!」
大声でそう弁解したかったが、これではなんの弁解にもならない。「いや、だから、これが我々の仕事で、こういうことを仕事で日々やっているだけなんだ」ではいよいよ墓穴を掘る。
私が肛門を披露している写真じゃなかったのが不幸中の幸いとするしかない。なんてことを考えながら本を閉じ、駅に着くまでの間、急に眠ったふりをしたのだった。
決して忘れてはいけないもの
六本木のタイ料理屋に携帯を忘れた。なんでもかんでもすぐに忘れる私だが、携帯だけは忘れることがあまりない。用がない限り、持ち歩かないので、忘れようにも忘れないのである。この時は人と待ち合わせだったために携帯していたのだが、案の定忘れた。
すぐに気づいて店に電話をしたらシートにあったとのこと。
翌日、取りに行ったら、きれいな女の従業員がニコニコして携帯を返してくれた。「きれいだなあ、愛想がいいなあ」と思いながら、エレベーターに乗って携帯を開いた。あ、陰毛だ。
Alfred Stieglitz「Georgia O’Keeffe – Torso」
私の待受画面は陰毛写真になっているのである。この瞬間までこのことをすっかり忘れてた。
これには深い事情がある。
懇意の風俗店の控え室にいたら、プレイを終えたコがバスタオル一枚で控え室にやってきた。下着くらいつければいいものを、すでに私は部屋の置物としてしか見られていないため、下半身を丸出しにしてしゃがみこんでいる。
「そんな格好をしていると写真を撮るぞ」
私は冗談のつもりでそう言った。
「携帯の待受にしてくれるんだったら、撮ってもいいよ」
彼女は昼間は別の仕事をしているので、取材はNG。写真も一切NG。しかし、下半身だけだったらわかりはしない。
とくに撮りたかったわけではないのだけれど、そう言ってくれているのに、撮らないわけにはいかなくなって私はカメラを取り出して下半身だけ撮った。
私は約束を守って、携帯の待受にしていたのである。
忘れ物の携帯電話の持ち主を探すため、中を開いてみるくらいのことはしそうで、あの笑顔はたぶん「見ましたよ」の意味かと思う。約束を守る私の律儀な性格をここから読み取ってくれただろうか。「お礼に君の陰毛写真に差し替えましょうか」と言ってみればよかった。どこがどうお礼になってないるのかは誰も知らない。
※この時に撮った陰毛写真は「イケてる陰毛各種-毛から世界を見る 34」に使用している。
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