松沢呉一のビバノン・ライフ

なぜドウォーキンは力を得たのか—女の分断・フェミニズムの分断 [5]-(松沢呉一)-4,187文字-

ラディカル・フェミニズムの御都合主義的利用—女の分断・フェミニズムの分断 [4]」の続きです。

 

 

 

「ラディカル・フェミニズム」と宗教右派の関係

 

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マック・ドウォーキン主義」が少なくともこれまで北米でそれなりに力を持ってきたのは、宗教右派を筆頭とした社会の道徳と通底しているためでしょう。これについてはナディーン・ストロッセンが『ポルノグラフィ防衛論』で指摘していた通り。

では、『ポルノグラフィ防衛論』からナディーン・ストロッセンが、マック・ドウォーキン主義を批判した箇所(いっぱいあるんですけど)を挙げておくとしましょう。保守主義者たちやキリスト教原理主義者たちと「ラディカル・フェミニスト」たちとは、性的表現に対する姿勢が一緒であることを指摘した部分です。

 

保守主義者や原理主義者たちの性的作品の検閲を支持する根強い感情は、ミース・ポルノグラフィ委員会の追い風でもあったが、検閲推進を求めるフェミニストの追い風ともなっている。ジェシー・ヘルムズ、エド・ミース、フィルス・シュラフリー、ドナルド・ワイルドモンなどの伝統を重んじる活動家たちは、ある一面においては、「ラディカル・フェミニスト」と称する人々から距離を置こうとし、また同じく、検閲賛成派フェミニストたちは、このような保守派からは距離を置こうとしている。しかしながら、これらのフェミニスト、原理主義者、保守派たちの目標は、重なり合う部分が大きく、目標達成のために互いに補い合っているのである。スージー・ブライトは、マック−ドウォーキン主義者を「原理主義フェミニスト」と呼んでこの点を強調しており、また他にも「反動的フェミニスト」、「右翼フェミニスト」などと上手な呼び名をつけている人々もいる。政治家学者ジャン・べック・エルスタインは次のように説明している。

ポルノグラフィ反対派のフェミニストは、保守派との間に共通の利益が存在していることを必死に否定している。フェミニストたちは、保守派は男性支配を維持することに誰よりも大きな関心を持っていると考えている。しかし、フェミニストが主張するとおり、ポルノグラフィの目的が女性を従属させることであるというのであれば、「右翼の男性」がポルノグラフィを好まない理由は理解できない。両者とも否定はしているものの、右翼とフェミニスト過激派の活動には重なる部分があるのである。それぞれが展開する理論は異なるかもしれないが、両者が掲げるポルノグラフィ撤廃という目標は共通である。

「伝統的な家族の価値」を守る保守派とポルノグラフィ反対派フェミニストとの共通の関心は、一九九二年の性的表現反対運動に表れている。〝全米ポルノグラフィ反対連合〈the National Coalition Against Pornography〉〟は、「我慢はやめよう」というスローガンをかかげて、運動を開始し、注目を浴びた。プログラムのリーダーは、保守派の女性がほとんどで、フィリス・シャラフライの〝イーグル・フォーラム〈Eagle Forum〉〟やビバリー・ラヘイの〝アメリカを憂える女性の会〈Concerned Women for America〉〟などの右翼団体に所属する人々だったが、中西部全域に立てられた看板などのプロモーションには、アンドレア・ドウォーキンの言葉の引用が目立っていた。

 

Wikipediaよりナディーン・ストロッセンの写真(Nadine Strossen by David Shankbone)。

 

 

インチキな右派とインチキなフェミニストの主張は同じ

 

vivanon_sentence上の引用内での「右翼の男性」はおもにキリスト教道徳に基づく保守主義者の男たちを指します。

右翼の男性がポルノを好まないのは表面的な話です。この本には出ていないですが、そういう人々が強いエリアでこそ、ネット上のポルノの需要が多いことが明らかになっています。全部データがとれてしまうのがネットの怖さですし、やっていることと言っていることが違う人たちの滑稽さです。

さんざん楽しんでおいて、それをやり玉に挙げるのがこういう人たちの特性です。欲望の強さを自身で認められず、「自分が悪いのではない。ポルノが悪い」と責任転嫁し、「自分は大丈夫だが、判断力のない人たちが見たら大変なことになる」と選ばれた自分を棚に上げ、劣った人たちのおせっかいをすることで贖罪をするわけです。この時にとくに利用されるのが子どもです。「子どもが見たらどうする」と。そう思うなら見せなければいい。これは家庭の問題。

この心理と行動ついては矯風会初代会頭・矢島楫子の人生が大変参考になりますので、読んでない方は「われ弱ければ人のせい-矢島楫子と矯風会(ロングヴァージョン)」をお読み下さい。3万文字以上ありますけどね。

保守派の人々のインチキぶりがよくわかりますが、「ラディカル・フェミニスト」もまた同じで、こちらは引用文ではカッコつきです。本来のラディカル・フェミニストとはズレてしまったことを示唆していて。ここではマック・ドウォーキン主義者を指します。

 

 

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