一生やっていける仕事—いくつになっても風俗嬢[下]-[ビバノン循環湯 434] (松沢呉一) -3,700文字-
「30代はまだひよっこ—いくつになっても風俗嬢[中]」の続きです。
30代でも若い方
ここまで「若く見えれば熟女・人妻系のヘルスじゃなくても働ける」という話を書いてきたが、それだけじゃないんである。年相応にしか見えない40代でもヘルスで働けるのだ。
都内某所。「こんなところにヘルスがあったのか」という地味な街に看板が出ているのを発見して、取材を申し入れた。
社長自身が受け付けをやっていて、他に従業員はいないみたい。
私は取材の趣旨を説明し、体験取材に協力してくれることになったのだが、社長は繰り返しこう強調した。
「うちには若いのはいないんですよ」
「いや、全然かまわないですよ。今は熟女の時代ですから」
「地元のお客さんばかりで、そういう人たちには30代以上の方が受けがいいんですよね。そんなに稼げる店でもないから、若いコが入っても長持ちしないし。僕もずっとこの仕事をやってきて、若いコたちは使いづらい。その点、子供がいるような世代は、出勤もしっかりしているし、真面目だし、そういう人たちだと、こっちも応援したくなるじゃないですか。僕も今は遊ぶんだったら、二十歳そこそこのコよりも、30代以上がいいですよ。若いコじゃ、話も合わないですから」
写真を見せてもらって、やっと意味がわかった。この店、そうは謳っていないのだが、中身は熟女店だったのである。写真に書かれた年齢では20代後半もいるが、たぶん実年齢は30代だろう。30代後半ともなると、実年齢は40代じゃなかろうか。若妻専門店よりさらに平均年齢は高そうだ。
私としては「若いコはいない」というのは、「20代後半が中心」という意味だと思っていたため、急に話の方向を変えた。
「雑誌的に言うと、30歳くらいの受けがいいんですよ」
この店の若い世代だ。
「わかりました。じゃあ、交渉してみますね」
めったに取材は受けていないらしいのだが、やっと社長はこう言ってくれた。
本日の出勤は一人
後日、連絡があって、取材を受けてくれるのがいるというので、店を再訪した。台風が近づいているため、雨が強くなっていて、待合室に客は誰もいない。この間もいなかったが。
しかし、奥から、話し声が聞こえている。こんな日にも遊びに来ているのがいるのか。
社長は最初から謝ってきた。
「いや、実は1人しか取材をOKした女の人がいなかったんですよ。それで、今日はこんな天気なんだけど、彼女に出勤してもらいまして」
「今接客中なので、もうちょっと待っていてください」
どうやらその彼女しか出勤してないみたい。そうは客が来ないから、それでもいいのだろう。
やがて、若い客が奥から出てきたのだが、フロントで声を潜めこんなことを言っているではないか。
「他の女のコに続けて入ってもいいですか」
ずっと会話が聞こえてきていたわけがわかった。その気にならず、会話で時間を過ごしたらしい。
社長は困ったような声でこう答えている。
「台風なので、早番は彼女しか来ていないんですよね。夜になると、交代するんだけど、6時頃になりますよ」
あと2時間ある。待ってられなかったのか、客は予約することもなく、そのまま帰った。この街には他にも風俗店があるので、そっちに行ったのか、池袋や新宿に出ることにしたのかもしれない。それとも、こんな天気だから、家でセンズリか。
このやりとりを見てしまったため、もはや私の覚悟は決まっている。なんの期待もしないことだ。
年上かも
間もなく社長は案内してくれた。ドアの向こうで待っていた女性を見て、そのまま帰ろうかと思った。
暗い照明の中でも、私の同級生くらいにしか見えない。しかもやつれた雰囲気だ。年上だと言われても信じる。この歳になると、痩せた体型は貧相に見え、皺も目立つものである。
私はノートを取り出した。
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