松沢呉一のビバノン・ライフ

私が体験した安全確実な方法—禁制品を持ち込むには[下]-[ビバノン循環湯 471] (松沢呉一) -3,052文字-

スチュワーデスとエロビデオ—禁制品を持ち込むには[中]」の続きです。

 

 

 

私の体験

 

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税関の話以外にも彼女からはいろいろ聞いたが、忘れてしまった。日記に書いてあるだろうが、調べるのが面倒である。

彼女のことは名前すら覚えておらず、名刺ももらわなかった。私は渡したようにも思うが、この男に名刺を渡すのはまずいと思ったのかもしれない。賢明だ。こうやって、約束破ってしまうわけだしな。でもそれほどたいした話でもないと思ったから書いたまで。彼女の身元もこれなら絶対わかるまい。一応気を使っているですよ。もし万が一バレたらゴメン。

彼女に気を使わなくとも、彼女が本当に航空関係者であるのかどうか私には何の確証もなく、したがってこの話の信憑性もどの程度なのかわからないことを、全国の税関、スチュワーデス、政治家、麻薬犬の名誉のために改めて書いておく。

彼女から聞いた話はここまでで終わりだが、ついでに99パーセント確実な禁制品持ち込み法を書いておく。

以前タイに行ったとき、ニンニクのビン詰めを買った。そんなもん日本にだって売っているだろうから、わざわざタイで買わなくてもいいようなものだが、店頭で見たら、すげえうまそうだったんよ。スタミナつきそうだしさ。これ以上スタミナつけて何するつもりかというところだが、そのときはアジア旅行につきものの下痢をしていて、スタミナをつけたかったんでしょうな。しかし下痢の時にニンニク食ったら、もっと下痢するな。頭も朦朧としていたんだろう。

そのビン詰めをタオルで巻き、預けるバッグの中に入れておくことにした。桃屋並みの頑丈そうなビンに入っていたので、まず割れることなどないだろうと考えたわけだ。

そして成田で、タイの思い出にひたりながら、ベルトコンベアの荷物を待っていた。やがて出てきた荷物を持ち上げ、その瞬間、クラクラした。ツーンとする臭いが鼻をつく。最初、一体何の臭いなのだかさっぱりわからなかったのだが、その原因を確かめないではいられない刺激臭で、その場でバッグを開けた。原因はすぐに判明した。ニンニク入りのビンが割れていたのだ。

その臭いはニンニクではなく、漬けてあった酢の臭いだった。それがもうすさまじくて、バッグを持ってられないほど。ただ不快という感情を喚起するだけでなく、体が拒絶するような悪臭だった。

ともかく税関を通ろうと、台の上にバッグを乗せた。係員は「ウッ、クセェ」と言って、鼻をつまんだ。そう、そういう反応をしてしまうくらいの強烈な臭いだったのである。私は事情を説明した。係員はチャックを開けたが、開けたらいよいよ臭いは強くなるばかりだ。

係員はずっと鼻をつまんだまま、中をまるで見ないでチャックを閉めた。

「もう行っていいよ」

申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

The American Clipper in 1940. Crossing the Atlantic in style.

 

 

自宅まで続く針のむしろ

 

vivanon_sentence税関を通ると、すぐにトイレに駆け込んで、割れたビンやニンニク、包んであったタオルを捨てた。絵はがきや本にものきなみ酢が染みていて、これも捨てた。タイの思い出は日本に着くや否やゴミになってしまった。服にも染み込んでいたのだが、どこまでどう染みているのかわからず、バッグの底がベトベトになっていて、何をどこまで捨てていいのかの半分もできず、残りはそのままにすることにした。

 

 

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