松沢呉一のビバノン・ライフ

ホステスは計算が必須・風俗嬢は計算不要—ホステス体質・風俗嬢体質[上]-[ビバノン循環湯 530] (松沢呉一)

十年以上前に「てぃんくるNET」に書いたもの。徳間書店の雑誌でやっていた連載で取材させてもらい、そこに入り切らなかった話をこちらに使ったのだと思います。その時は二誌で使うことの許可をもらったと思いますが、個人が特定できることは書いていないので、今回は無許可です。文句言われたら消します。

ここに出てくる西船橋の人妻ホテルヘルス「主婦の会」はよく取材に協力してもらって、遊びにも行ってました。西船橋は穴場なのです。江戸川区からだったら東西線ですぐ。夫が都内で働いていれば、まず西船橋で遊ぶなんてことはない。千葉県内に住み、県内で働いている場合でも、何か縁がなければ西船橋で遊ぶことはない。遊び場としての認知のない場所だから、奥様方でも安心して働けるのです。

でも、この原稿はそんな実用的な話ではなくて、体験があるからこそ語れる、水商売に向くタイプと風俗嬢に向くタイプの話。さらには水商売の客と性風俗の客の違いについてです。ちよっと前に売り専ボーイたちが売り専とホストの違いを語っているインタビューを出しましたが、あれを読み直して、この原稿のことを思い出したので、循環することにしました。

ホステスさんの著作権切れの写真を探していたら、ジョセフィン・ベーカーの写真やポストカード、ポスターが多数ひっかかってきて、これがいいのですよ。ダンサーとして、また、歌手として1920年代から30年代に世界のキャバレーやショーで大人気だったことがよくわかります。ホステスさんとはちょっと違いますし、西船橋の風景写真と少しも合わないですが、適当にあしらってみました。

 

 

 

水商売と性風俗は似て非なる仕事

 

vivanon_sentence千葉県西船橋にある人妻ホテルヘルス「主婦の会」の女性店長に雑誌の連載でインタビューした。

現在四十一歳。二十代から三十代を通して、新宿でクラブホステスをやっていて、風俗店のスタッフになったのはこの店が初めてだが、二十代半ばの時に客の売り掛けがこげついて、その返済のため、ホステスを辞めてホテトルで働いていたことがある。

金はすぐに返したのだが、ホテトルの日銭が魅力で、しばらくはホテトルの仕事を続けた。水商売に復帰して以降も、誰にも言わずにホテトルで働き、三十歳になるまでの足かけ五年ほど、ホテトルで働き続けた。

したがって、水商売のことも風俗のこともよくわかっていて、その両者を比較した話が非常に面白かったのだが、そのインタビューは文字数が足りず、もっとも面白かった部分を掲載できなかったため、ここで紹介したい。

よくある話だが、水商売で人気があっても、風俗で人気が出るとは限らない。また、水商売で芽が出なくても、風俗でお茶を挽きっぱなしとは限らない。逆もまた同じで、ヘルスのナンバーワンがキャバクラに移り、ヘルスのようにはうまくいかず、あっという間に戻ってくることもある。

どっちでも使えないのはたくさんいそうだが、どっちでもナンバーワンになった人は、いないわけではないにせよ、極稀な存在かと思う。水商売と性風俗は似て非なる仕事なのである。やることが違うのだから、仕事として違うのは当たり前のようでいながら、どこがどう違うのかを的確に説明することは案外難しい。

その点、この店長は、ナンバーワンとは言わずとも、どっちでもボチボチうまくやっていたらしいので、両者の違いを身をもって経験していると言える。

「クラブホステスは計算できることが成功する秘訣です。お客さんに会った瞬間に、この客はどういう客で、どこまで金を引っ張れるかを計算する。こういうことを言ったら、相手がどう出るかも全部瞬時に計算する」

クラブに比べるとプロ意識が希薄で、希薄であることに売りがあるキャバクラだとここまでの計算は必要ないだろうが、彼女がいたのはクラブである。この計算は当然自分自身の見せ方にも反映される。相手が望む自分を演じ、ウソやハッタリ、思わせぶりも重要な道具なんである。

 

 

next_vivanon

(残り 1572文字/全文: 3215文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ