松沢呉一のビバノン・ライフ

ソープランドは何をするところ?—イメクラの客・ソープランドの客[下]-[ビバノン循環湯 529] (松沢呉一)

初めて吉原の高級店へ—イメクラの客・ソープランドの客[上]」の続きです。

 

 

 

楽して遊ぶために風俗入り

 

vivanon_sentenceYちゃんが吉原に移ったのは単純に金のためだ。イメクラに戻った時こう言っていた。

「この店、前は流行っていたんだけど、スタッフの質が落ちて、稼げなくなったんだよね」

このイメクラは一時は飛ぶ鳥を落とす勢いだったのだが、従業員が入れ替わってからは私も寄りつかなくなった。

だからと言って彼女は贅沢がしたいのではない。「より多くの金を手にしたい」のでなく、「より働きたくない」ために風俗嬢になった。月曜から金曜までコンビニでバイトするんだったら、週に二日風俗で働いて、あとは遊んでいたい。

彼女は夏は海に、冬は雪山に行きっぱなしで、長期間遊ぶためには、風俗が一番適している。彼女は服やバッグ、食い物で散財することがなく、ホストクラブにもまるで興味がないため、週に二日か三日店に出て、あとは家でグータラしている。それでも夏や冬に長期で遊ぶために貯金ができている。もちろん、人にも店にもよるけれど、普通の暮らしをしていれば、そのくらい稼げる仕事だ。

「あの子は人気があるのに出勤しないんですよ」と店の人もボヤいていた。

こんなYちゃんにしてみると、今までの生活を維持するため、また、泳いだり、スノボーをするために、客が減った店で週に二日か三日の出勤を四日、五日に増やすのはかったるく、だったらソープランドということになったのである。

なにしろキャラを作るということをしないので、あんまり色気はなくて、セックスの体験もさほど多くない(仕事は除く)。彼氏以外とセックスしたこともない。それなのに、いざプレイになると、スケベ・オーラをまきちらし、絶叫してイキまくる。その激しさが私は好きで、復帰して以来、時々遊ぶようになった。

Myrna Loy in The Barbarian ( aka A Night In Cairo ) ( 1933 )

 

 

遊びに来てよ

 

vivanon_sentence何度目かに店で会った時、彼女はこう言った。

「私、またソープに戻るかも。やっぱり、ここって稼げないんだよ。もし移ったら、遊びに来てよ」

「いいよ」

Yちゃんとだったら、一度セックスもしてみたいもんだ。恋愛感情というほどではないが、すでに気持ちが通じ合っていて、そんな気分も醸し出されてくる。

間もなく彼女はその言葉通りに、前とは別の吉原の高級店に移って、その旨、メールをくれた。

仕事が忙しくて、なかなか吉原まで行けず、また、金もなかったのだが、文庫の印税が入ってきたので、出勤日を彼女に確認して、ようやっと吉原へ向かった。

高級店に行くんだから、いつもと違う趣向を楽しもうと、浅草で寿司折りを買った。ソープというと土産は寿司ってカンジがするんである。なにしろ120分だから、時間はたっぷりある。

彼女に「これから行くね」とメールをして、店に予約を入れようと思ったのだが、この店、彼女が言うようにえらく人気のある店らしくて、ずっと話し中だ。予約を入れて、送迎してもらおうと思ったのに、浅草から歩きながら何度も電話をしているうちに吉原に着いてしまった。

店に入って彼女の源氏名を言ったところ、「はい、松沢様ですね。うかがっております」とのこと。彼女が店に言ってくれていたらしい。

さすがにいつもと違う従業員の態度で、私とて、ちょっと緊張。

1920s French postcard, lovers, kissing shoulder, embrace

 

 

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