マゾのイベントにマゾの客は来ない—『マゾヒストたち』[無料記事編 4]-(松沢呉一)
「BLとAVと女性客—『マゾヒストたち』[無料記事編 3]」の続きです。
マゾは日の当たるところに来たがらない
女子高生、BLファン、女性AVファン、女王様への呼びかけが続きましたが、同類であるM男の客はあんまり期待できない。恐いもの見たさや奇人変人を期待する男たちは来るでしょうけど、マゾっけのある人ほど、こういう場に来るのをためらいます。
M男は男のマゾを直視したくないと思います。自分自身をそこに見てしまうし、自分もマゾだとばれることを恐れるので。
『マゾヒストたち』に出てくれた18人は特殊中の特殊な人々です。今回、壇上に出てくれる人たちはその中でもオープンな人たちです。
『マゾヒストたち』でも、最初にSMクラブに行く時は躊躇に躊躇を重ねて、店の前に行っては帰ることを繰り返したなんてことを語ってくれている人もいます。
以前は、ゲイがゲイバーに最初に行く時は怖くて何度も引き返したという話をよく聞いたものです。昨今はその抵抗が薄らいできていますし、学校の友だちや同僚、あるいはそれ以外の遊び友だちに言えるようになってきているので、ゲイバーに行くまでもないという人たちもいるでしょうが、今なお隠している人たちにとって二丁目という街自体が鬼門です。ノンケは気楽に行けるというのに。
マゾの場合は、店の中で殴ったり蹴られたりすることを恐れるということもあって、ゲイ以上にハードルが高いかもしれない。それこそを求めているわけですが、ファンタジーが拡大していて、そのまま殺されるのではないかとの期待と恐怖に怯えるのです。
SMクラブに通うようになっても、SMバーはまた別のハードルがあります。SMバーは興味本位で来るノンケ客、接待で使う社用族も来ますから、近所の人や職場の人に見られたらどうしようと怯えます。
SMクラブとSMバーと、並行して通う人もいますが、SMバーの客は、店の妖しい雰囲気が好きなだけでSMをやらない人、さんざん遊んでもうSMクラブには行かない年輩の人、パーティやサークルでの活動がメインでSMクラブにはあまり行かない人だったりします。
若い客が会社の先輩とやってきてハマり、もっと本格的にプレイをしたいというのでSMクラブに旅だっていくパターンもあります。SMバーは若い世代にとっては高いですから(安めの店もありますが、たいていは高めのキャバクラ並)、両立は難しい。
『マゾヒストたち』でも説明したように、両者の客は一部ダブりつつも違うのです。
両者を比べた時にSMバーの客は客同士で仲良くなったり、イベントに出かけていったりする率が高いわけですが、それでもオープンな人は少なくて、SMのショーがあるようなイベントが成立するのは、東京と大阪くらいで、SMクラブがいくつもある名古屋でさえ難しいと言われています。少人数の緊縛講習会や撮影会ならともかくとして。
※7月いっぱいで閉店したフェティッシュ・バー六本木「ミストレス」。ミストレスについては『マゾヒストたち』のあとがき参照。
「世界はマゾでできている」に来る男性客は断じてマゾではない!!!
そのくらい自分がマゾであることを知られたくないものです。政治家や芸能人、文化人でもマゾであるといわれる人たちはけっこういます。SMクラブからどうしたって漏れます。店で隠していても、著名人は顔でばれます。しかし、しばしば表向きの顔と違いますので、SMクラブ以外の場所では言わなければまずわからない。
新潮社の校閲部だった天野哲夫氏が亡くなったあと、自身がMであるとわかるようなことを言ったり書いたりしている著名人は石野卓球くらいか。
最近私が注目しているのは、大川隆法の長男でありながら幸福の科学に叛旗を翻した映画監督・脚本家の宏洋(ひろし)です。自分はMだとよくYouTubeで言っているので、『マゾヒストたち』を送っておいてくれと新潮社に頼んでおきました。「本格的にマゾの道を究めてみないか」というお誘いの意味を込めまして。
しかし、Mには医者、会社経営者、大学教員といった人たちも多く、そういう人ほどバレたくはない。
また、プレイの時は女王様と自分だけの世界にいるわけですから、他の客がいるとわかっていても、そのことは考えない。しかし、パーティの類いでは他の奴隷たちも見てしまうので、興ざめする人もいます。
自分の性癖を誰かと語りたいという欲望はあっても、女王様がわかってくればいい。
フェチ系の人たちは対象となるブツの情報が欲しいため、ネット上でのネットワーク作りをするものです。そのことも『マゾヒストたち』では語られていますが、今回の「世界はマゾでできている」はフェチ系マゾが入っていないので、お仲間が集まることも期待できません。
ということで、マゾの人はまず来ない。「世界はマゾでできている」に来る男たちは、マゾではなく、私や奥野君の知人が義理で来ていたり、新潮社の人たちだったり、他の出版社の人やライターがネタ探しに来ていたり、間違って来ていたりするだけです。
と書いておけばM男さんたちも来やすいかなと思いまして。
※六本木ミストレスでの青山夏樹×蒼武蔵のショー。倒した敵を見下ろすサイバー戦士みたいでカッコいいな。夏樹さんにとって「ミストレス」は古巣です。
続きます。
以下はテンプレです。
世界はマゾでできている—松沢呉一著『マゾヒストたち』(新潮文庫)発刊記念
マゾしか出ません!!
本年5月をもって休刊となった「スナイパーEVE」で連載していた「当世マゾヒスト列伝」が『マゾヒストたち』として新潮文庫に登場。
18人の選び抜かれたマゾ男の精鋭たちのインタビューとコラムで構成された希有なM男たちの肖像。
その発刊を記念して、マゾヒストたちの生の声を聞きます。
女王様がいてのM男ですが、女王様は出ません。
M男が主人公のイベントです。
【出演】
松沢呉一(生活マゾ)
【スペシャルゲストのマゾたち】
クニオ(露出・身体改造・性豪・包茎自慢の変態)
山田龍介(元キックボクサー・ヤプーズマーケット代表)
紅葉(盲目のピアニスト・マゾ)
予定していたゴン太さんは欠席となりました。その代わりに変態界の大物が急遽出演決定。『マゾヒストたち』には登場しない人物ですので、当日までお楽しみに。
※本イベントは16禁です。15歳以下の方はご遠慮ください。
【会場】
☎︎090-2588-9905
【日時】
2019年11月17日(日)
開場/ 13:00
開演/ 13:30
2時間半程度を予定しています。
【参加料金】
<お得な本付き料金>
前売 ¥2,500 当日 ¥2,600
<本なし料金>
前売 ¥2,000 ¥当日 ¥2,500
※いずれもドリンク別です。
予約はパンディット(二種の予約は入口が別になってます)
またはFacebookのイベントページで「参加予定」をクリックするだけで予約扱いになります。当日、どちらかを選択のこと。
ゲストのプロフィール
クニオ 思春期から裏山でセックスを始め、十代でストリップ劇場の楽屋まで出入りするように。以来、全国のストリップ劇場を回り、同時にトルコ風呂にも行くようになった。自身がマゾという自覚はないが、性器に傷をつけて黴菌をつけて化膿させるのが好きで、SMショーにもMとして出演している。自身が身体改造マニアという自覚はないが、ピアスを体中に入れて銭湯に通っている。包茎が自慢で、包茎サークルのメンバーでもある。
山田龍介 ブロのキックボクサーだったが、マゾに目覚めて、名古屋の北川プロのビデオにデビューし、多数のビデオに出演。最多本数に出たマゾ男優かもしれない。結婚し、子どももいたが、家庭を捨てて、マゾとして生きることを決意して上京。浅野ナオミ女王様の奴隷として軟禁生活を送ったあと、監禁専門ビデオメーカー・ヤプーズマーケットの代表に。同社の出演者はヤプーと呼ばれ、経営者・制作者にしてヤプー0号として出演もしている。
紅葉(もみじ) 幼少期に事故で両眼を失明。盲学校に通いながら、ビンタをされたい願望が高まる。数学専攻で国立大学に進んだあと、ピアノの勉強のため、ポーランドに留学。帰国後、自身の欲望を抑えられず、単身、SMクラブに乗り込み、数学、ピアノに続いてマゾとしての実践を開始、V&Rの作品に出演してマゾ男優としてデビュー。本に掲載されたインタビューの段階では独身だったが、その後、結婚。当日はマゾの結婚生活についても聞けるはず。