松沢呉一のビバノン・ライフ

無料記事シリーズはこれで終了—『マゾヒストたち』[無料記事編 20(最終回)]-(松沢呉一)

映画「主戦場」の裁判と『マゾヒストたち』の重要なお知らせ—『マゾヒストたち』[無料記事編 19]」の続きです。

 

 

 

新潮社だからこそ

 

vivanon_sentenceスナイパーEVE」で「当世マゾヒスト列伝」を連載している時に、インタビューを別の書き手がアレンジして本にしたいという、おかしな話が一度来たことがあったのですが、配慮も何もなく、面白おかしく素材として使いたいということだったと思われ、編集部の方から断ってます。

そんな話はありましたが、このインタビューを本にしたいなんて話は一度もありませんでした、マニア雑誌の連載ですから、気づく編集者もいなかったでしょうけど、気づいたとしても本にしようと考えるような酔狂な編集者はいないと思います。

SMブームはとっくに去り、テレビでも扱いにくくなった時代には、仮に編集者個人が内容を面白がったとしても、出そうとはしない。

しかし、売れることも当然大事でありながら、同時に「どこにもないものを作りたい」という思いの強い新潮社では、あっさり企画が通りました。言ってみるものです。

当初は女王様とM男を交互に掲載するものとして企画を通したのですが、M男だけにしたいという方針変更も受け入れてくれました(この経緯は後書き参照)。男のマゾばかりが出てくる本はたしかにどこにもないですから。

闇の女たち』に続いて「新潮社以外、どこも相手にしない原稿」がまたしても形になって嬉しい。

猫将軍さんによる表紙とともに、背表紙にも注目のこと。新潮文庫では、その著者の1冊目は白い背で、2冊目から背に統一の色がつきます。この色は著者が指定することができて、私としては爽やかなパステルカラーがよかったのですが、1冊目2冊目の内容に合わせて、「他の著者が使っていない黒」をリクエストしました。黒の著者は多いですけど、黒にもいろいろあります。出来上がった見本を見たら、マットっぽい黒になってました。光によっては紺にも見えます。『闇の女たち』もこれ以降増刷されれば同色に統一されるのですが、それまでは白背と黒背でバランスが悪いので、早く統一したい。まだ買ってない方は『闇の女たち』も併せてお買い求めください。

 

 

『マゾヒストたち』はちょうどいいカンジ

 

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今回は売れることを期待するよりも、思い切り売れずに大量断裁になるのではないかとの不安が強く、発売日に、Amazonの数字はほとんど動かず、五桁に留まっていたため、その不安が加速しました。

通常、新潮文庫の場合、予約の段階で四桁になるのですが、『マゾヒストたち』はずっと五桁。周辺の人たちや「ビバノン」講読者さえ買ってくれない本。これはもうダメだなとガックリしました。

しかし、読んだ人が感想を書いてくれたあたりから徐々に数字が上がり、 初刷の2割か3割しか売れない事態は避けられました。

先日編集者に聞いたところによると、同日に出た新潮文庫の新刊では真ん中辺とのことです。田嶋陽子著『愛という名の支配』の下辺りじゃないでしょうか(Amazon上ではそんなに差はないですが、これは『マゾヒストたち』の方が定価が高いためで、冊数ではあちらの方が多く、リアル書店での動きはあちらの方がずっといいでしょう)。

つまりは事前プロモーションが足りていなかったのです。「スナイパーEVE」はなくなってしまったし、私が拠点としているFacebookは実名性によって、エロを避ける上品メディアですから、こういう内容はシェアしてもらいにくい。この無料記事編も、圧倒的にTwitter経由で読まれています。

闇の女たち』の時と違って、今回、新潮社はこちらからの要望で「世界はマゾでできている」のフライヤーを作ってSMバーに配布したくらいで、あとは通常の宣伝をしただけです。新潮社としてはプッシュしにくい内容で、ブッシュしても売れる見込みがない。この判断は間違ってないと思いますし、生活マゾとしてはこういう扱いが悲しくてマゾ汁が出そうになったりするから複雑です。

対して『闇の女たち』は手厚いケアがなされ、数字もしょっぱなから順調だったので、そういう場に慣れない私は居心地が悪くてイライラしていたのに対して、今回は落ち着きがいい。

Twitterの新潮文庫のアカウントでさえも取り上げにくいそうで、営業も「なんてものを作ったんだ、こんなもん、売りようがない」と思っているのではなかろうか。なのによく出したものだと改めて思います。

 

 

これで『マゾヒストたち』無料記事編は打ち止めです

 

vivanon_sentenceしかし、紀伊国屋新宿本店や三省堂東京駅店などから、宣伝物が欲しいとの要望があって、急遽、店頭用パネルが作られました。

 

 

 

 

これは嬉しい。書店としては、プッシュすればもっと売れると判断したってことです。

また、「週刊文春」の「文春図書館」で取り上げてくれています。闇の女たちは新潮社のメディア以外では書評はほとんど出ておらず、今回は「週刊文春」に出ただけでも満足です。続けて他にも出てますし、これからまだ出ますが、週刊誌に出るのがもっとも嬉しい。それで売れるかどうかではなく、一般受けする内容ってことが確かめられたことが嬉しい。

さらに読書会まで開かれるようです。闇の女たちは関西で知人たちが小規模な読書会をやってくれたようですが、今回は読書会のグループが東京でやってくれるみたいです。その場で皆で読み合うのではなく、読んだ人たちが集まって私の話を聞きつつ、皆で語り合う会らしい。語る要素はいっぱいありますから。

世界はマゾでできている」も驚きの大盛況でしたし、少しだけですが、『闇の女たち』も動いていて、すべて順調。これ以上になるとまたイライラしてくるので、このくらいでいいや。満腹。

また復活することもあるかもしれないですが、ここで『マゾヒストたち』[無料記事編]は終了し、この本についてのさまざまは通常の公開に戻します。

 

 

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