松沢呉一のビバノン・ライフ

名前は短くなってきている—男の名前・女の名前[付録編2]-(松沢呉一)

一世紀後まで影響を及ぼすオアシスの功績—男の名前・女の名前[付録編1]」の続きです。

 

 

 

名前の短縮化

 

vivanon_sentenceいくつかの国で、名前が短くなってきているという報告が出ています。前回見たように、ウィリアムではなく、リアムが好まれるようになったのもこの現象のひとつです。

スイスはドイツ語圏とフランス語圏に分かれているので、サンプルとして好都合で、言語によって違う名前がつけられています。しかし、2008年8月6日付「swissinfo.ch」によると、そのどちらでも短くなってきていて、1999年には男の子の平均は6.0文字、女の子は平均6.3文字だったのが、2007年には、男子5.7文字、女子5.9文字になったそうです。

これはスイスの特殊事情があって、1999年の段階では、名前は役所のリスト内でしかつけられず、その多くは聖書に基づくものだったために長い傾向がありました。この規定が撤廃されたために、ドイツ語圏ではレナ(Lena)とティム (Tim)、フランス語圏ではネイサン(Nathan) とエマ(Emma)が人気トップに。Nathanは6文字ありますけどね。

ドイツも同じ頃に名前の自由化がなされているため、やはり名前が短くなってきています。どこの国も規制がゆるんで間もないのですね。

ナチス・シリーズを見ていただけるとおわかりのように、もともとドイツ人は名前が長い。洗礼名が入ったり、両親や祖父母の名前が入ったり、爵位を示す言葉が入ったり。

これらをつけない傾向が強くなってきていて、姓名全体がシンプルになっているのと同時に、個々の名前自体も短くなってきていて、男性名のクリストファー(Christopher)、女性名のクリスティーネ(Christine)のどちらもがクリス(Chris)になって性別が消えている。語尾で性別を示すことが多いので、短くすると必然的にこうなります。

これもジェンダーニュートラルな名前が増えている一因になっているかもしれない。

 

 

ミドルネームをつけなくなってきている

 

vivanon_sentence前に登場したフランス人ヴァンサン・ギルベール(Vincent Guilbert)さんが言っていたのですが、フランス人もミドルネームがついている人が多いそうです。

 

「私もあります。ただ、普段は使わない。友だちのミドルネームも知らない。なくてもいいようなものですけど、名前はもともと聖書から来ているものが多くて、ヴァリエーションに限りがあります。どうしても、同姓同名の人が出てきてしまうので、その区別の意味合いがあるんじゃないかと思います」

 

 

フランスでもミドルネームをつけなくなってきているようなのですが、この話を聞いて、ミドルネームをつけなくなってきている国で、他と違う名前をつけたがるようになった事情のひとつがわかりました。

子どものパンツに名前を書いておいても、修学旅行で同姓同名のクラスメイトのパンツと間違ってしまうため、その時は普段使わないミドルネームのイニシャルだけでも書いておけば間違えない。

フランスの複合名(prenom compose)もそういうことでしょう。複合名というのはジャン=ジャック(Jean-Jacques)とかジャン=ミッシェル(Jean-michel)とか、ジャン-ポール(Jean-Paul)とか、ミドルネームを名前に組み込んだものです。全員ジャンですから、なんかつけておかないと区別できない。

 

 

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