今も答えが出せない差別表現の難問—Die Antwoordのブラックフェイスと中国のブラックフェイス[上]-(松沢呉一)
判断ができなかったDie Antwoordのミンストレル・ショー表現
「乾貴士のナイスなギャグか、アジア人差別か—心の内務省を抑えろ(ボツ編)」で、もうひとつ、どうしても答えを出せない表現があると書きました。結局、そちらはボツのままにしてしまったのですが、 答えが出せない事情を説明しておくことにしました。なぜ出すことにしたのかの事情は次回やるとします。
以下は今回まとめ直したものであり、ボツ記事のままではありません。
2012年のDie Antwoord「Fatty Boom Boom」がそれです。
ヨーランディがミンストレル・ショーを模しています。ブラックフェイス、とくにここではミンストレル・ショーをおそらく意識したブラックフェイスですから、通常であれば非難轟々になっていいはずです。事実、批判はされているのですが、擁護論も強く、そちらが上回ったと言ってよさそうです。今もこうして公開されているわけで。
※日本では「ダイ・アントワード」が一般的ですが、アフリカーンス語では「ディー・アントワート」(意味は「解答」)。オリジナルの読みを知らないまま、私はアフリカーンスだったら「ディー」だろうというので「ディー・アントウォード」と読んでいて、それが頭のなかで定着してます。どうするのがいいのかわからんので、原表記のままにしておきます。
ブラックフェイスの意味が変換される
これを解釈するキーは、レディ・ガガです。レディ・ガガは南ア・ツアーのオープニング・アクトとしてDie Antwoordにオファーしていますが、Die Antwoordは断って、この曲を発表。これが解答ってわけです。南アのことをよくわからないまま、南アにやってきたMVの登場人物はレディ・ガガです。
これを前提にした時に、ブラックフェイスは、通常とはまた別の意味を持ちます。
ハイエナやライオンが町を闊歩する「捏造されたケープタウン」の中でのブラックフェイスもまた虚構のひとつです。
アパルトヘイトが消えた南アでは、富裕層だった白人たちの多くは金を持って国外に脱出し、残った白人からプア・ホワイト層が拡大していきます。Die Antwoordはそのプアホワイトを基盤としたZEFと呼ばれるカルチャーの代表となっています(ZEFという言葉は前からあった言葉であり、彼ら独自の用語ではありません)。
ミンストレル・ショーは、強者である白人が、粗野で知性のない黒人を演じて笑いをとるものですが、南アではすでにこの絶対的な関係が壊れていて、Die Antwoordがミンストレル・ショーを演じることは、現実を戯画化したものではなく、アパルトヘイトの時代をなお南アに見ようとする人々の戯画化になっているのです。
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