ヨーロッパの方向転換と日本の入管法改正—リビアの洪水と難民問題[補足編]-(松沢呉一)
「リビアの洪水と難民問題」の補足編です。
ギリシャ沖で沈没し、82名が溺死、数百名が行方不明
まだヨーロッパの不法入国者の動画や記事から離れられないのですが、いくつか重要な報道を見つけたので補足しておきます。
以下は6月の報道です。
ギッシリの人を乗せた船がギリシャ沖に現れ、発見した沿岸警備隊が「救助が必要か」と聞いたら、「イタリアに行くので不要」と答え、マルタの貨物船が水と食料を補給していますが、その後沈没。過積載が原因と見られています。
結局、ギリシャが救助に当たり、発見された遺体は79(のちに82に増えています)、救助されたのは104名。何人乗っていたのかもわからないのですが、750名乗っていたとも報道されています。うち100名が子ども。この数字が正しければ500名以上が行方不明。
ギリシャの島から80マイル沖だったとあるので、100キロ以上泳いで自力で助かった人はいそうにない。泳ぎが得意でも、潮に流されることなく、最短の島に辿り着くのは困難ですし、船が沈む際にもろともに海底に沈んだのが多いでしょう。
この船はリビア発で、乗っていたのは、エジプト、パキスタン、シリアの人々。この船に乗ったはずで、行方がわからないと家族が申し出たパキスタン人だけでも209名に達し、やはりパキスタン人の密航者は多いようです。
イタリアにこだわった理由は不明ですが、BBCによると、ギリシャは密航船を追い返すようになっていて、それを避けたのではなかろうか。
同記事によると、ギリシャ移民省のイオルゴス・ミカエリディス氏は、「現時点では、誰がヨーロッパに来るかを決めるのは密航業者だ」「密航業者に支払う金を持っている人々だけでなく、本当に困っている人々を受け入れるため、EUの堅実な移民政策を繰り返し求めてきた」と述べたそうです。
密航船に乗っているのは、密航業者に支払う金を持っている人々であり、いくら困っていても、金がなければ船に乗せてもらえない。経済難民を受け入れることで、本当に困っている人々の余地がなくなっており、そこを再考すべきということでしょう。
✳︎2023年6月15日付「BBC」
英国は船による違法入国は国外退去に
もうひとつ見逃していた記事。2023年3月8日付日本語版「ロイター」によると、英国は、いくつかの例外を除いて、船による違法入国者は難民申請ができなくなり、強制送還する方針に転じました。
この方針転換を見逃していただけでなく、英国は、イタリアやギリシャに着いた密航者を引き受けたり、香港からの亡命者を受け入れることはあっても、直接英国に密航船がやってくることはないと私は思い込んでました。
現実はまったく違っていて、アフリカや東ヨーロッパからイタリア、フランス、ドイツなどに不法入国した人々がフランスからドーバー海峡を渡る貨物船に密航したり、ゴムボートで渡る密航者が後を断たず、年間1万人近くが英国に到着。
夢のフランスやドイツに入国しても、不法滞在では、正規では仕事ができず、低賃金・重労働の仕事にしかつけない。それでも仕事があればまだ良くて、ギャング団に入って、窃盗、強盗をするしかない。
「思っていたんと違う」となって、「よその国に行けばなんとかなる」と、各国を渡り歩いている流浪の民のような人々がいるのです。彼らが貨物船に密航できるのは、キツい仕事の筆頭である港湾労働なら、違法滞在者でも働けるためだろうと想像します。
私もバイトしたことがありますが、無茶苦茶キツくて危険。甲板から船倉の床までビルの5階くらいあって、フェンスも何もないので、足を滑らしたら死にかねない。積荷が崩れて足を潰した人がいて、補償も何もなかったと言っていたのが怖くて、1日でやめましたが、たしかギャラはよかったはず。しかし、不法滞在だと、足元を見られます。
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