松沢呉一のビバノン・ライフ

本日、作家・暇空茜のデビュー作『ネトゲ戦記』発売—社会的視線のアンバランスが是正されるか-(松沢呉一)

 

アニメイトに対する脅迫事件の不気味さ

 

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暇空茜著『ネトゲ戦記』をめぐって、何者かがアニメイトを脅迫したとされる事件のことは、2月16日の時点でチェックしていたのですが、ナワルニー死亡を先行させました。

アニメイト脅迫については、いくらなんでもの話で、俄には信じられずにいましたが、その内容も不可解すぎます。

印刷に入ってから発売中止だと損害が大きくなりますので、このタイミングでは、 KADOKAWAも発売中止の判断は難しくなっています。発売を潰す圧力の一環としてやるのであれば、もっと早くやるでしょうけど、そんなことを考えられる人物ではないのかもしれない。

脅迫犯が中止発表の日にちを2月16日に指定し、アニメイトに「その理由を明かさない」と要求していたことが犯人像を浮かび上がらせます。なぜその日でなければならないのか。しかし、ここを突っ込み始めると危ういことを言ってしまいそうなので、言及するのやめとくわ。

京都アニ事件」を持ち出した非常に悪質な脅迫であり、警察は本気で動くでしょう。速やかに犯人が逮捕されること願うとして、この騒動で、Amazonでは「現在在庫切れです」の表示が出ています。Amazonは相当数の注文を出していると思われ、通常、予約でその部数に達しても、追加注文を出すだけのことですが、取次か版元で在庫切れになって、増刷待ちの状態だと思われます。

在庫切れになったからと言って、すぐさま増刷が決定するわけでなく、書店の動きを見て決定するのが通例ですが、今回の騒動で、発売前に増刷決定ではなかろうか。

大手の書店や注文を出していた書店には配本されますから、すでに店頭に出ているはずですが、書店で予約した人たちも多そうなので、店頭にはほとんど出ないかも。増刷がすぐに出来ると思いますので、ちょっとの辛抱です。

いずれは脅迫内容が公開されて、「犯人の思惑を潰すために買わなきゃ」と思う人や、事情はよくわからなくても、「そんなにすごい本なのか」と好奇心を掻き立てられる人たちが出てくることくらい予想して当然。犯人は、その程度も考えられないくらいの馬鹿か、本が売れるのを妨害したいのでなく、別の目的がある人物か。ここを突っ込み始めると危ういことを言ってしまいそうなので、言及するのやめとくわ。

いずれにしても、こういった脅迫を無効化するためには売れることが肝要。

✳︎Amazonより暇空茜著『ネトゲ戦記

 

 

暇空茜の書類送検報道の不気味さ

 

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書影ができていなかったので、ここに至ってしまいましたが、『ネトゲ戦記』はどちらにせよ、取り上げようと思っていました。

同じ2月16日に、暇空茜がColaboに対する名誉毀損で書類送検されたとの報道が出ます。これもひっかかる点がいくつかあります。そもそも、暇空茜によると、刑事告発を受けて、取り調べを受けたのは昨年2月だとしています。告訴したのがいつかわからないですが、なぜ刑事告発したことを喧伝しなかったのでしょうね。Colabo側も起訴に至ることを想定していなかったのではないか。

実際逮捕されることもなく、さらには民事裁判の進行によって、刑事告訴の内容(の一部)が限りなく事実に近いことが明らかになり、あとは「タコ部屋」という表現の問題だけです。これが刑事の名誉毀損に当たるとは思えない。

不起訴になる可能性が高いがために、書類送検されたことを知らしめることが印象操作をする唯一最後のタイミングだったのだろうと想像します。

 

 

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