独り言で気味悪がられる客の対処—新・銭湯百景[20]-(松沢呉一)
「Googleクチコミで評価の低い銭湯を確認しに行く—新・銭湯百景[19]」の続きです。数ヶ月前に書いたのですが、面白くないので放置してました。読み直してもやっぱり面白くないです。
銭湯のおばちゃんの意外な質問
数ヶ月前の寒い夜。おばちゃんが受付にいる時はダベることのある銭湯に行ったら、そのおばちゃんがいて、「ちょっと聞きたいことがあるから、帰りに声掛けて」と言います。
「わかりました」と答えて、脱衣場に入りました。寒い外から入ってきた客を呼び止めて話をするのは気が引けたのでしょうが、簡単なことなら今話せばよく、長い話になる質問とはいったいなんだろうと気になります。
「松本人志の裁判の行方は?」って質問だと、「高い確率で松本人志は負ける」で終わります。10秒もかからん。
「最近腰が痛くて」だと、慰め合うことはできても、答えは私もわからんです。私の場合はたぶん椎間板ヘルニアが悪化したためですが、腰痛の原因はさまざまなので、「病院に行け」と答えるしかない。
「人間は死んだらどうなるの?」と聞かれても「知らん」。
いろんな仮想をして、その答えを考えているうちに入浴の全行程を終了して、脱衣場を出ました。
「聞きたいことってなんですか」
「あのね、いろんな銭湯に行っているでしょ」
「最近はあんまり遠出はしてないですけどね」
「遠くなくていいんだけど、銭湯で、独り言を言っているお客さんを見ることってある?」
銭湯の専門家と言えるおばちゃんから銭湯のことを聞かれるとは予想してませんでした。銭湯の経営者には、客と一緒に銭湯の浴槽に入る人と入らない人がいて、このおばちゃんは入らないのです。自宅部分にある内風呂に入ります。昔ながらの番台だったら別ですが、桶や椅子を片付けたり、湯温を確かめたりするために中に入ることがあるだけで、洗い場の客の様子はよくわかってません。
「独り言を言っている人はどこの銭湯でもいますよ。頻繁とまでは言えないけど、10回か20回に1回は見ますね。独り言を言う人は毎回言うと思うので、そういう人と同じ銭湯の同じ時間帯に通っていれば頻繁に見られるでしょう」
もう潰れましたけど、前に時々行っていた銭湯にも独り言を言うのがいて、遅い時間に行くとずっとブツブツ言っている彼に出くわすことがありました。20代半ばか。そういう人がいると、近づいて、何を言っているのか聞き取ろうとする癖が私にはあります。しかし、彼は自分でも気にしているのか、近くに人がいると黙るので、何を言っているのか聞き取れたことはないです。
✳︎写真と本文は関係ありません。以下同
独り言を言い続ける女
おばちゃんはこう言いました。
「女湯だけじゃないんだ」
「独り言は男女共通でしょう。たぶんどこの国にも、どんな年齢層にいますよ」
調べるまでもなかったのですが、後で検索したら、どこにでもあります。中国語で独り言は「独白」なんですね。日本では演劇などの表現技法でしかほぼ使わないですが。雑誌インタビューでも使うか。
おばちゃんがそんなことを今日知りたくなったのは、私が来る前にちょっとした「事件」があったためでした。
「常連さんが、“ずっとおかしなことを言っている人がいて、気持ち悪い”って教えてくれたんですよ。その常連さんに受付を見てもらって、洗い場に入ってみたんですよ」
「いた?」
「すぐわかりましたよ。けっこう大きな声でしたから」
大きな声の独り言はレア。私も聞きたかった。
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