松沢呉一のビバノン・ライフ

おばちゃんが語る迷惑外国人の変遷—イラン人から中国人へ[新・銭湯百景23]-(松沢呉一)

ツユのぷすが殺人未遂—客がいるのに潰れる銭湯の知られざる理由[新・銭湯百景22]」の続きです。

 

銭湯で見かけた中国人集団

 

vivanon_sentence銭湯で中国人を見かけることは稀でした。正確に言うと、中国人がいたとしても、全裸では見抜きにくい。小声で何か話していた2人組、3人組が脱衣場に出てから会話を交わしているのを聞いて、中国語だとわかったことはあります。台湾人かもしれないですが、どこの国の人でも、だいたいはこんな感じ。慣れていないと、外国人がここにいていいのか不安なので、萎縮するってこともあると思います。

また、洗い場で大きな声で話すべきではないと思っていることもあるでしょう。コロナ対策として、洗い場で会話することを慎むように「黙浴」を勧める貼り紙が今も出てますが、本来、洗い場で会話を交わすことはマナー違反ではなく、コロナ禍においても大声で話している人たちもいて、それを聞くのが私は好きです。

しかし、コロナ前でも、そんなに賑わっているわけではない銭湯の洗い場は静まり返っているので、「話をしないのがマナー」と誤解する人もいるのは当然。

このように、「銭湯での外国人は物静か」というこれまでのイメージが徐々に変化してきています。

7月、たまに行く銭湯で、大学生と思われる4人が大きな声で会話を交わしていてました。中国語です。反り舌をきれいに発声していたので、台湾語ではありません。

この時は迷惑ではなかったのですが、8月に同じ銭湯に行ったら、またも中国人の集団がいました。顔を覚えていないので、前のグループとかぶっているのか、別なのかは不明。大学は夏休みになっているはずで、帰国しなかった中国人留学生ではなかろうか。

この時も大声で話しているのはいいとして、出たあとのの始末がひどい。洗面器や椅子が出しっぱなし。これはままあることですが、揃って全員が乱雑に放置していることは少ない。その上、シャワーヘッドが床に投げ出され、ボディソープのボトルも床に置かれています。ボディソープやシャンプーのボトルを床に置く人は稀にいます。詰まって出が悪いため、床に置いて体重をかけて押すのです。それでも普通は戻すものです。

あまりにひどいので、バイトをしている銭湯ではないのに、すべて私が片づけておきました。

✴︎9月22日は沖縄で「シークヮーサーの日」に制定されており、それに因んで、東京の組合銭湯では「シークヮーサー湯」が実施されました(銭湯によってはその前後に実施)。私は柑橘類の風呂が好きです。体の香りが体に移り、風呂から出てもしばらく香りが漂います。「シークヮーサーの湯」は入った記憶がなく、期待していたのですが、案外香りは薄くて、移り香や残り香は楽しめませんでした。

 

 

イラン人の思い出を語るおばちゃん

 

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後日、別の銭湯のおばちゃんとダベっていた時に、このことを思い出して、こう聞きました。

「ここって、外国人の客は来ます?」

「来ますよ。前はよくイラン人が来てました」

「20年以上前」

「そうそう。テレフォンカードを売ったりしてね。この近くに、イラン人がたくさん住んでいるアパートがあったみたい。人がいっぱい住んでいるので、シャワーもゆっくり浴びれないって言って、入れ替わりで来てましたね。あの人たちは体臭が強いんだけど、悪い人じゃないのよ。でも、風呂の入り方を知らないので、全部教えなきゃいけない」

「“騒いじゃいけない”とか」

「いや、来る時はだいたい一人なので、そこは大丈夫。日本人だったら、言われなくてもわかるようなことがわからない。“洗い場に入ったら、まず先に体を洗ってから浴槽に入る”とか“洗い場から出たら体を拭く”とか“浴槽にタオルや石鹸を入れない”とか、そういうことを全部教えなきゃいけない。あの人たちは背が高いでしょ。立ったままシャワーを浴びるのが当たり前だと思っているので、周りに飛沫を撒き散らすんですよ」

 

 

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