新庄北/唯一無二の野球を目指して【2023夏の山形大会・私的注目校レポート】
夏の山形大会は鶴岡東や日大山形、山形中央といった上位校を中心に優勝が争われるのはたしかだろう。だが、出場校の中には野球に対する姿勢や工夫、個性が光るチームも存在。ときには上位校に勝ってしまうこともある。そんな私的注目校の一つとして新庄北を紹介したい。
■悔しさを隠しきれなかったゲーム後の表情
「はい! ではよろしくお願いします!」
新庄北への取材依頼を伝えるべく、監督である八鍬強太への電話を終えた私は、少々拍子抜けした気分だった。八鍬の快活で明るい受け答えが、昨秋の県大会で接した姿とは別人のようだったからだ。ふだんはこんな感じなんだな、と。
2022年9月、秋季県大会2回戦・鶴岡東VS新庄北は、4対0で鶴岡東の勝利となった。試合後、敗れた監督の八鍬に話を聞こうと取材エリアで待機をしていると、八鍬は悔しさを押し殺せない顔でやってきた。有り体に言えば「不機嫌」そうだった。そんな様子を見て「やっぱり本気で勝つつもりだったんだな」と私はうれしくなった。
相手は分厚い戦力を誇る優勝候補。此方、選手がベンチ入り20人に満たない公立進学校。それぞれのバックグラウンドを考えれば、負けても誰も責めはしないであろう試合。しかし、新庄北の選手たちのプレーや姿勢からは、本気の本気で勝とうとしていることが伝わってきた。八鍬の態度を見て、それは確信となった。山形県全体のレベルアップを考えるのであれば、こうしたチームが一つでも増えてほしいと素直に思えた。
■上位校と同じことをしても勝てない
「私学の強豪など、上位校と同じことをしても勝てませんから」
新庄北に感じた可能性は、八鍬のこの言葉に尽きる。
今年の新庄北には2人の3年生投手がいる。背番号1をつける、見るからにパワーのありそうな右腕の栗田真之介。そして、背番号6をつけた、本職は遊撃手の右アンダースローの鈴木廉音。鶴岡東戦で八鍬が先発に指名したのは鈴木だった。
鈴木の球種は最速110キロのストレートに100キロ前後のスライダー、90キロ前後のカーブ。140キロを出す投手が珍しくなくなった現代の高校球界では、かなり遅い部類に入る投手だろう。それが効いた。アンダースローからの緩急差に、鶴岡東の打者たちは110キロを数字以上に速く感じていたようだった。強豪校の打者に対しては、得てして普通の投手がまともに勝負に行くよりも、こうした相手の感覚を狂わせる投手の方が抑えてしまうことがある。
「ストレートを軸に内、外と両サイドで揺さぶって打たせてとる。野手を信じて投げることを大事にしています。そう思うと気楽になって、ストライクを投げられる」
ひょうひょうとした表情で答える鈴木は、その印象のままに淡々と内角の厳しいコースを突ける。死球を当てて謝罪はしても、ひるまず再び内角を突いていく。下手からの緩急差だけではなく、そんな強気の姿勢も好投の要因だ。
「球速には最初からこだわっていないので、緩いボールを投げることに対する怖さもありません」
適度にボールが荒れるのもやっかいだ。地面に近い低い位置から高めのミットに突き刺さるような球道に、打者が迷ったように中途半端なスイングで手を出してしまうシーンも見られた。もちろん、鶴岡東打線もやられっぱなしではない。右のサイドやアンダーの天敵である左打者を中心にコツコツと鈴木を攻める。結果的に鈴木は4失点完投。自責点は2であった。100点ではないが十分、好投といえる内容だろう。
「私学の強豪にも変化球は通用することがわかりました。あとは左打者対策をどうするかが課題です」

高校入学後、ノックでのスローイングを評価されてアンダースロー投手への挑戦を勧められた鈴木廉音。
■新庄、最上の子どもたちでもやれることを示したい
「甲子園で勝つことをベースに練習に取り組んでいます。新庄から甲子園に出て勝つことに意義があると思っていますので。土地柄なのか、このあたりの生徒たちは力があるのに、自分たちを小さく見積もってしまう。だから、新庄、最上の子どもたちでも頑張ればやってやれないことはない、ということを示したい」
八鍬自身も新庄市の隣、戸沢村の出身で新庄北OB。「甲子園で勝つこと」に取り組む根源の一つは、郷土愛である。

「強い相手になればなるほど、リスクをとっても挑まなければならない」と語る監督の八鍬強太。
では「上位校と同じことをしても勝てない」のであれば、新庄北は何を武器にすべきか。八鍬は次のように語る。
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