ヤマガタ野球通信

村山産の全校応援が教えてくれたこと

「カーンッ!」と乾いた打球音を残してボールが高く舞い上がる。
「オーッ……」
観客がその高さ、スタンドまで届きそうな飛距離に感嘆の声を漏らす。
レフトの選手が打球を追い、余裕をもってボールをグラブに収めると、観客は「オーッ!」と盛り上がり、万雷の拍手が球場を包む。

これは試合ではない。7月9日の日曜日、新庄市民球場で行われた夏の山形大会1回戦・村山産VS創学館の試合前、村山産のシートノックの光景である。
野球経験者、あるいは目の肥えた野球ファンであれば日常的な光景で、特段、騒ぐ必要もないシーンかもしれない。だが、この歓声の主は全校応援でやってきた村山産の応援団。初めて高校野球を、いや野球そのものを球場で見るのが初体験という生徒も少なくはなかった——。

試合前、球場の外周を歩いていた私は、ちょうど球場入りする村山産の応援団と鉢合わせになった。
「修学旅行みたいだねー」
満面の笑顔で私のそばを女子生徒2人組が楽しそうに通り過ぎる。もちろん、全員がそんなテンションであると思うほど脳天気ではない。貴重な日曜日が応援で潰れることが憂鬱な生徒だっているはずだ。
それでも。
1人でも野球の応援に胸を踊らせて球場入りする生徒を目にすると、野球ファンとして心底うれしく、ホッとする。シートノックの光景を見て、そんな気持ちはより強くなっていた。

小規模校の全校応援がもたらすもの

大会パンフレットの村山産のチーム紹介ページ。掲載されていた吉川文夫監督の言葉が心に引っかかっていた。

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