鶴岡東VS山形中央/勝利につながった「余裕」の違い<2023夏の山形大会・ゲームレポート>
前年度代表校で春の優勝校でもある鶴岡東と、侍ジャパンU-18代表候補合宿で名を上げた「二刀流」武田陸玖が引っ張る山形中央が激突した準々決勝の注目カード。結果は3対2で山形中央が9回サヨナラ勝利。武田が評判に違わず投打に躍動した。
■注目選手にふさわしい活躍を見せた武田陸玖
先制したのは鶴岡東。2回表、2死走者なしから7番・森神晴樹が高めのボールをレフトスタンドに運び1点を奪う。続く3回表には1番・松原憂羽がセンター前ヒットで出塁すると2番・高橋快のピッチャー前に転がった犠打を武田が二塁へ悪送球。続く3番・寺前甲陽も同じようにピッチャー前に犠打を試みたが今度は武田が好判断で二塁走者を三塁封殺。1死一、二塁で4番・竹添雅樂を迎える。その初球を山形中央の捕手・戸村良和がパスボール。竹添の一飛で2死となった後、5番・山内涼が放った強い二ゴロを二塁手・田村葵里が弾いて鶴岡東が2点目を挙げた(記録は強襲ヒット)。昨秋は武田に完封された鶴岡東打線。成長と練習の成果か、ヒットは武田のボールに力負けせず、しっかりと捉えていた。
一方、鶴岡東の先発左腕・櫻井椿稀は快調な立ち上がりで3回まで被安打1の4奪三振で無失点。外角ギリギリに決まったボールを武田にレフトフェンス際に運ばれたシーンのみヒヤッとしたが、縦に割れるカーブを主体にした投球で山形中央打線を抑える。ここまでの流れは完全に鶴岡東ペースだった。

カーブやスライダーを軸に7回1失点と好投した鶴岡東の先発、2年生左腕の櫻井椿稀。
だが、4回裏、山形中央は先頭の2番・武田が二塁打で出塁すると、櫻井が続く3番・木村祐葵に死球を与え無死一、二塁。4番・中川碧人が送って1死二、三塁とすると5番・戸村良和の打席で櫻井のカーブがすっぽ抜け捕手の頭を越える暴投に。山形中央が1点を返してなおも1死三塁。しかし、櫻井は後続を断って、その後も無失点ピッチングを披露。対象的に山形中央は守備の乱れが止まらず、内野のエラーをきっかけに何度かピンチを招く。だが、最後は武田が踏ん張って失点は防ぐという薄氷を踏む展開が続く。
このまま2対1で鶴岡東が逃げ切るかという空気になってきた8回裏2死、ゲームを振りだしに戻したのは、やはり武田。この回から登板した鶴岡東の二番手、左腕の三好航生が投じた緩い外角への変化球をじっくり呼び込んで叩くと打球はレフトスタンドに。山形中央がついに2対2と同点に追いついた。9回表、山形中央はまたもエラーで走者を許すが、ここも武田が気迫の投球で後続を断ち無失点。その裏、ヒットで出た先頭の中川を戸村が送り、2死二塁となった場面で回ってきた7番・石垣史穏がレフト前にサヨナラヒットを放って3対2と山形中央が逆転勝利を収めた。

本塁打を含む4打数3安打の武田陸玖。凡退した第1打席もあわや本塁打という当たりだった。
■気になった4回裏、鶴岡東の守り
結果だけ見ればこの試合の殊勲は武田であることは間違いない。鶴岡東打線を散発7安打2失点の完投勝利。球速も最速146キロを記録した。打でも3点中2点に絡んでいる。特に同点においついた本塁打は試合と球場の空気を一変させた点で貢献度は大きい。技術的にも外角の緩い変化球を引きつけ、逆方向に飛ばすという見応えのある一発だった。
ただ、奈良崎匡伸監督が試合後に「不思議な勝ちだった」と振り返ったように、山形中央は失策4に捕逸1。記録はヒットだったが先制を許したセカンドへの強襲ヒットもエラーと判定されても不思議ではなかった。これだけミスをすれば普通は負けゲーム。エラーを引き金に武田、あるいは山形中央がガタガタと崩れても不思議ではない。ましてや相手は試合巧者の鶴岡東である。実際、鶴岡東のミスらしいミスは、失策0で櫻井の暴投が1つあっただけだ。山形中央の残塁5、鶴岡東の残塁10が示すように、自らもエラーでピンチを広げた場面もあった武田が、粘りの投球をしたことが最大の勝因だろう。
ただ一つ、鶴岡東には前半、気になる点があった。
4回裏の守り、1点を失った後の1死三塁の場面である。
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