『監禁探偵』 犯人が誰だろうとどうでもいい「どんでん返し」 (柳下毅一郎) -3,038文字-
監督 及川拓郎
脚本 小林弘利
撮影 早坂伸
音楽 石川光&NebuSoku
出演 夏菜、三浦貴大、津田匠子、甲本雅裕
マンションの一室にカメラを据え、カーテンの陰から隣のマンションの部屋を覗いている男(三浦貴大)がいる。と、カーテンが乱れ、中でなにやら起こっている様子。男はあわてて向かいのマンションに忍びこむ。床に倒れている女性。抱き起こそうとすると血まみれ!死んでいる!そこへばたんとドアを開けて入ってきた女の子(夏菜)。男の姿を見て悲鳴をあげたので、男はあわてて飛びかかってタックル。壁に頭をぶつけ、娘は気絶してしまう。
目をさますと、娘はベッドに手錠でつながれていた。男は自分が殺人犯だと思われると考え、気を失った彼女を自分の家まで連れてきて監禁したのである。「おまえが犯人じゃないのか?」と意味不明のことまで言いだす男に対し、彼女は殺された娘レナはモデルであり、自分は友人で同じモデル仲間なのだと明かす。「あんた、指紋がそのままになってるんじゃないの?」言われた男はあわてて指紋を拭き取りに殺人現場に向かう。そのあいだに窓際に据えられたカメラを覗きこんだ娘は、男がレナの部屋を盗撮していた盗撮犯人であることを知る。盗撮犯にして拉致監禁。この男が殺人犯に違いない!
だが部屋に戻ってきた男はおろおろするばかりで、誘拐した娘をどうするかも決められないでいる。主導権を握った娘は「あんたが犯人じゃないっていうなら真犯人見つけないと。あたしも協力してあげる」彼女を監禁しているうえに盗撮魔であることも知られている男は警察に通報もできない。警察より先に真犯人を見つけないと自分が犯人にされてしまう。というわけで監禁少女を探偵役に、二人の捜査がはじまった……
て、これ変だよね?
いや、何が変って、まず盗撮魔が盗撮していた部屋に行くのがおかしい。そこへ行って何をするつもりだったのか。それが殺人事件ではなく、たとえば痴話喧嘩だったとしたら、ベランダから入りこんで何を訴えるつもりだったというのだろう。そしてそこで出くわした少女を拉致監禁するというのがさらにおかしい。自分の家に連れこんでおいて、「ぼくは犯人じゃないんだ。信じてくれ」と切々と訴えるとか、頭おかしいとしか言いようがない。拉致して家に連れ込む時点で口封じ以外の選択肢はないではないか。まあパニックに陥ってつい拉致してしまったという言い訳がつくんだが、「つい」で気絶した女の子を抱えて隣のマンションまで運び、「たまたま」持っていた手錠でつなぐとか……そして監禁少女の言動はさらに意味不明。これ、原作が我孫子武丸+西崎泰正のコミック(実業之日本社)である。あの論理性の塊みたいな我孫子武丸がこんな妙な話書くのか?と不思議に思って原作を読んでみた。そしたらびっくり
1)男が殺人現場に入りこむのは下着を盗もうとして。つまり男は盗撮魔の上に下着ドロ。
2)死体を発見した時点ですでに少女は監禁三日目である。男はセックスできると思って家出少女を連れこんだのだが、抵抗されて殴りつけ、気を失ったのでそのまま手錠で縛り付けていたのである。つまり盗撮魔で下着ドロの上に変態の犯罪者。
これを映画化しようとなったときに、なぜか主人公が変態では困る!好感の持てる人物しなければならない!と言い出した人がいたんだろうね。それで変態の設定をとりやめ、基本的にはいい人間なんだけどなぜか監禁してしまうという話をこしらえたというわけだ。でも、いい人は監禁なんかしないんだっつーの! そして「いい人だけど監禁する」という無理矢理な話を作るために、物語はどんどん非現実的な方向に転がっていくのだった。
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