▽[今週の殺し屋日記] 柳下毅一郎の10/17 -10/31『リゴル・モルティス/死後硬直』・『ホドロフスキーのDUNE』・『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライブ』・『劇場版魔法少女まどか☆マギカ』・『ブリング・リング』
10/17(木)
山形ドキュメンタリー映画祭からようやく東京へ戻ってくる。
休む間もなくTIFF……と言いたいところだが実際は休んでばかりでパス取っただけでチケットもまったく取れず。てかプレス上映も満員御礼ばかりでどうしろと……
とりあえず今日はチケットをもらったので香港映画『リゴル・モルティス/死後硬直』を見る。
ゾンビ・ホラーの新機軸というか、まあアイデアは悪くないのではないかと思った。これは公開される気がするんで、劇場でご覧下さい。
10/19(土)
シネマヴェーラ渋谷の特集上映〈エドガー・G・ウルマーとゆかいな仲間たち〉でトーク。
ウルマー特集なので、「マイノリティの映画監督」と呼ばれたウルマーのイディッシュ語映画その他非英語映画について。
イディッシュ映画の実物もお見せできてよかった。
その足で三崎。酒合宿へ。
飲んだ食った寝た!
10/22(火)
TOHOシネマ六本木ヒルズにて『ホドロフスキーのDUNE』見る。
知っている話ばかりだが、やはりメビウスの絵が動きはじめるとゾクゾクするね。
10/24(木)
アップリンクにて『ファスビンダーのDUNE』の監督フランク・パヴィッチへのインタビュー。
『ルシファー・ライジング』のジャケットを見せびらかして受けをとるお仕事です。
夜、飲み会にお邪魔してさらに話す。クリス・フォスがものすごいアル中だという話がおかしかった。昼飯を食いに行ったら食事中はワインだかなんだかをガンガン飲んで、食後酒をダブルで頼んで、カプチーノをダブルで頼んで、ケーキを食って、「やれやれ終わりか…」と思ったら食後酒ダブルからあとをもう一度くりかえした! インタビュー中もずっとウォッカを飲んでて
「あとで撮影素材見たら酔っ払ってるのがまるわかりなんだよ! だからカラーコレクションで顔から赤みを抜いたんだ」
カラコレの創造的な使用法! で、フォスの家の裏庭にはインディの二作目の冒頭シーンに登場するローラーコースター(実物!)があるんだそうだ。実際に乗れるかどうかは知らない。
あと、映画に出てくる「DUNEの本」があるんだが、これが数年前にebayに出品されていて、どうやら日本人に落札されていたという話。
「え、日本人だったら知り合いの誰かだろ!? 中子真治?」
「中子さんなら絶対に自慢してるはず」
というわけで絶賛捜索中。あなたのご近所のマニアの本棚にやけに分厚い本はないですか?
10/26(土)
新宿紀伊國屋ホールでおこなわれたswanny 第5回公演、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー作『ゴミ、都市そして死』のシンポジウムに参加。
ファスビンダー翻訳でおなじみの渋谷先生、演出の千木良悠子さん、音楽の石橋英子さんの四人で話す。ちょっと時間足りないくらいでしたね。
10/27(日)
友達の結婚式があって、銀座で飲む。なんかいつもの飲み会の延長だった。
二次会まで行ったのち、swanny公演の打ち上げに顔を出す。
緒川たまきにあんなところで飲ませていいのか、などと……
深夜、ルー・リードの訃報を知り悄然。
10/28(月)
試写でジム・ジャームッシュのヴァンパイア映画『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライブ』。
ティルダ・スウィントンがあまりに若くてビビる。これがヴァンパイアか……てかジャームッシュ、このネタだけで映画作ろうと思ったんじゃないのか。
夜、新宿で『劇場版魔法少女まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語』。
ぼくはTV版はDVDで鑑賞して大いに感心した。魔法少女もののポストモダン的解釈として。
キュウベエハンパない。まさか熱力学第二法則を破ろうとしてたんだとは。
魔法少女が夢を願うとき、それに見合ったサイズの絶望もまた生まれる。世界に希望をふりまく魔法少女の夢が破れたとき、絶望に染まった魔法少女は世界に呪詛を唱える魔女になる。それはもちろん、少女が「夢を捨てて」大人になるという意味である。オリーブ少女はみんな魔法少女だったんだね。だから魔女の結界にはブランドもののお洒落グッズがあふれているのだ。
で、「『まどマギ』は魔法少女ものにとっての『エヴァンゲリオン』である」と言った。それはつまり、『エヴァンゲリオン』が過去のロボット・アニメの脱構築、ロボット・アニメの批評的再生だったのと同じ意味で、『まどマギ』は魔法少女アニメを解体し、再構築する試みだということである。だからまどかは最後にすべての魔法少女を救おうとするのだ。そのとき、過去のすべての魔法少女アニメのヒロインたちが、そしてそこに夢をかけ(だが叶わなかっ)た少女たちが救われるだろう……と考えていくと、あきらかにここには大きな矛盾がある。つまり『まどマギ』はあきらかに「男性向け(オタク向け)少女アニメ」の文脈で作られているからだ。最終回でほむらとまどかが裸で抱きあうシーンがその典型で、つまり、このアニメは救うべき相手に向けて作られていないのではないか? その意味では、幾原邦彦とかのほうが、正しくも無謀な戦いを挑んでいるとは言えまいか。
『まどマギ』に関してはいろいろ批評が書かれているようで、ぼくはもちろんちゃんと読んでいないのだが、女性の側から、かつての魔法少女から書かれた評があまりないような気がするのだな。SFとしてどうだとか(たいへんよくできているーーほむらが時間遡行を繰り返してるなら、そこで無限のエネルギーが回収できるんじゃないか?と思ったら、ちゃんと物語の胆になっていたので大いに感心した)、アニメの完成度がどうだとか(これもたいへんレベルが高いと思う)、脚本の巧みさとかいう以上に、ぼくは(元)魔法少女たちによる評が読みたい、と思った。
で、本作なのだが、あのきれいに終わった話をどうするのかと思うと完璧な蛇足。というか二次創作だよねこれ。まあファンの人はこういうのがお好きなんですかねえ。ぼくはキャラ萌えがまったくないので、公式二次創作には何も反応できず。
10/29(火)
試写で“ソフィア・コッポラの『スプリング・ブレイカーズ』”こと『ブリング・リング』。
スマホ自画撮りとfacebook世代のストーリーで、今という時代をえぐりだしたつもりなのだろう、ソフィア的には。だがはたから見れば甘やかされた金持ちのお嬢様ってあんたのことなんだよソフィア!というわけで例によってソフィア自身の話としか見られないのであった。
その後TOHOシネマズ渋谷で『潔く柔く』。舞台、鞆の浦やないか! 原作もそうなの?
10/31(木)
池袋HUMAXシネマズにて『マダム・マーマレードと異常な謎』。
ちなみに池袋HUMAXシネマはやけに空いてるくせに客を一箇所に固めたがって近くの席を売りつける(指定席の混雑状況をこっちに見せない)せいで、オレの隣に一人客の女の子が座ってなぜかカップルのようになってしまった……いい映画館じゃないかここ!