『好きっていいなよ』 アニメのダイジェスト総集編を見ているかのようなスピード感 (柳下毅一郎) -2,589文字-
監督・脚本 日向朝子
撮影 月永雄太
音楽 高見優
出演 川口春奈、福士蒼汰、市川知宏、足立梨花、西崎莉麻
累計600万部突破の恋愛バイブル待望の映画化!だそうである。小学館Cheese連載ということなんで、てっきり高校生がセックスしまくる系の話なのかと思ったが、意外にも暗くてクソ真面目で年齢=彼氏なし歴の16歳奥手のいじめられっ子が前向きに生きるようになるという話であった。『君に届け』も似たような話であったと記憶しているが、そういうの流行ってるのかな? というか、たぶん高校生がセックスして妊娠して白血病になって死ぬケータイ小説系のお話しというのは女子高校生たちの非現実的な願望であり、こういうイケテない系の女子にある日王子様がやってきて前向きに生きる!というのがより現実よりの願望だというだけのことなのかもしれない。そういうわけで主人公の橘めい(川口春菜)は地味な性格で「クラスで誰一人、声を聞いたことがない」と言われるほど引っ込み思案。ほとんど喋らないので、その分音楽が鳴る鳴る鳴る。最初から最後まで音楽が騒々しく鳴り響く映画であった。で、そこでどういう話が語られるのかというと……
小学生のときに同級生に裏切られたために心を閉ざしためいは、クラスでも誰とも口をきかないと突き飛ばされたりスカートを引っ張られたりと低次元なイジメを受けている。だがある日、同級生中西のイジメについに切れて「しつこいんだよ!」と後ろ回し蹴りを一閃! だがそのキックが命中したのは隣に立っていた学校一のイケメンにしてモテ男の黒沢大和(福士蒼太)のほうだった。当然「あの女、生意気……」とイジメは激しくなるものの、大和は「なんだか面白いじゃん」と下駄箱の前でめいをつかまえて無理矢理携帯番号を渡す。「わたしは友達なんかいらない。人はすぐ人を裏切るし、誰も助けには来てくれないんだ」と露骨に誘い受けしながら「わたしにかまうな!」とか言ってるめいだが、後日、アルバイトしているパン屋にいつも来る客につけまわされていることに気づいたとき、つい大和に電話してしまう。古本屋にめいを助けに来た大和、店の前でストーカー男に見せつけるように
「めい、愛してるよ」
と言ってキスをする。
「あーごめんごめん。ひょっとしてはじめてだった~」
大ショックで硬直のめい(だがストーカーは帰って行った)。
そんなわけでファーストキスを奪われてしまっためい、当然大和の取り巻き少女あさみが絡んでくる。
「大和とチューした? それともエッチした? あさみはチューだけだけど~ 大和、学校の可愛い子とはみんなチューしてるって~ めいちゃん可愛いもんね~」
やっぱり裏切られた!と逃げるめいを追いかける大和。キスにもいろいろあるんだよ、とばかりに。
「これはあいさつがわりのキス……これは進展したい人へのキス……今のは目の前にいる相手への気持ちのあるキス……さあ、俺のこと、好きっていいなよ。何も言わないと本気チューしちゃうぞ」
これ、へえと思ったのは、物語のテーマは実は恋愛ではないのである。大和との出会いによって、心を閉ざしていためいが前向きになり、すると友人もできて、彼女に感化されて周囲の友人たちも幸せを見つけていくという話なのだ。なのであまりうだうだしないんだよね。その意味ではあまり不快感はないのだが、話が早いので周囲の人々のエピソードを順番に片づけていく早送り感が強い。問題が生まれたときにはすでに解答がしめされており、ほとんど葛藤がないままに話がどんどん進んでいく。
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