『愛を積む人』 ここだよここ!手紙だよ!手紙くるよ! ・・・するとそこにはピンク色の封筒が (柳下毅一郎) -3,641文字-
『愛を積む人』
監督 朝原雄三
原作 エドワード・ムーニー・Jr.
脚本 朝原雄三、福田卓郎
音楽 岩代太郎
出演 佐藤浩市、樋口可南子、北川景子、野村周平、杉咲花、吉田羊、柄本明
文化庁文化芸術振興基金補助
原作はエドワード・ムーニーJrの小説『石を積むひと 』。妻の遺志をかなえるため、石壁を積みつづける男の話である。で、その舞台を日本に置きかえて映画化してみたわけだが、日本で石壁とか見ないよね? どういう理屈で石壁を作るんだ(そもそも何を防ぐつもりなんだ? キタキツネか?)と考えていたので、映画見て腰を抜かしたよ。
北海道旭川郊外に引っ越してきた小林夫婦の妻・良子(樋口可南子)は、前の住人(英国人カメラマン)が作りかけで放棄していった石壁を発見、「これ、完成したらスコットランドとかアイルランドみたいで素敵だわ~」と思いついて夫(佐藤浩市)に「ねえ作ってよ~」とおねがいしたのだった。ここまでなんの必然性もない展開だったとは! そしてもちろん妻は心臓病のために死亡し、以後狂気にとりつかれたかのように佐藤浩市は石を積みつづける……という陰々滅々とした映画を想像していたのだが、意外とそうでもないのだった。
理由のひとつは主演に佐藤浩市を得たことで、この人、どうも素っ頓狂というか、どんな役を演じても根が明るいというか執念を感じさせない。“俳優”ではなくて“スター”なので、自分自身しか演じられないタイプである。だから普段はシリアスなストーリーを軽くしてしまうばかりなのだが、この陰気なドラマはそのおかげでだいぶ救われている。演出のほうでは、良子が倒れるところがスローモーションになって見ているこっちが倒れそうになった以外は、わりと節度を保っていたのではないか。ただし音楽だけは別で、岩代太郎のMUZAKが切れ目なしになりつづけて、これはさすがにうんざりした。ハンス・ジマー的な意味で、ほぼ音楽が演出してしまっているのだ。こればっかりはなんともなりそうもないのが残念である。
さて、そんなわけで、蒲田の町工場を閉じて北海道は美瑛市にやってきた小林篤史(佐藤浩市)。仕事もないので日がな一日池波正太郎とか読んでるだけの夢の隠退生活である。見かねた妻に石壁作りを命じられ、いやいやながらアルバイトのトオル(野村周平)とともに石を積みつづける。途中、良子が苦しそうに胸をおさえたりするわかりやすい伏線。良子は心臓の病をかかえているのだが、それは篤史に黙っている。不器用で家庭のことは何もできない篤史を気遣って、すべての面倒をみてやっている慈母のごとき良子なのである。実は町工場でも名ばかりの社長だった篤史ではなく良子のほうが会社を仕切っていて、いろいろ苦労していたのであった。ある日、札幌までコンサートを見に行った良子が帰ってきたところで、家に侵入していた空き巣と出くわしてしまう。空き巣に突き飛ばされて良子は大怪我を負う。そのときに彼女は空き巣の顔を見ていたが、警察には言わなかった。実はトオルが悪いセンパイにそそのかされて留守宅に侵入していたのである。
翌日から、トオルの恋人紗英(杉咲花)が小林家に通って、家事を手伝うようになる。これ、贖罪のためなんだろうけど、何も言わないから様子をうかがいに来てるようにしか見えない。良子は篤史に勘当されている娘のかわりとして紗英をかわいがる。結婚記念日のディナーにも二人はまねかれる。篤史から良子へのプレゼントは真珠一粒。
「結婚当初、金が本当になかったら真珠を一粒だけプレゼントしたんだ。それから毎年、一粒ずつ送って、ネックレスを作ってる。不揃いでみっともないけど、ひとつきりの……」
「わあそれ見たいですぅ」
「……実はこないだの空き巣に盗まれてしまったんだ」
思わず顔を見合わせるトオルと紗英。ブツは主犯である不良が持って逃げてしまったのだ。そんなことにも何も気づかぬのんきな篤史。だが、楽しい日々は長くは続かず、ほどなく良子は病魔に襲われる。紗英と二人でキノコ狩りの最中、突然発作におそわれてすろーもーしょおおおおんで倒れる良子。暗転……
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