柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『ハウ』 シェルターから救われた犬がはるばる北のはてから800キロの旅……という話なのだが、別に実話ベースでもなんでもないみたいだし、なんでこんな話作ったんだ?

ハウ

監督 犬童一心
原作 斉藤ひろし
脚本 斉藤ひろし、犬童一心
音楽 上野耕路
主題歌 GReeeeN
出演 田中圭、池田エライザ、野間口徹、渡辺真起子、モトーラ世理奈、深川麻衣、長澤樹、田中要次、利重剛、伊勢志摩、市川実和子、田畑智子、石橋蓮司、宮本信子、石田ゆり子

 

「ハウ」というのは声が出せない可哀想な犬の名前。シェルターから救われた犬ハウがはるばる北のはて青森から800キロを旅して横浜の田中圭のところまで帰ってくる……という話なのだが、あまりに脈絡がなさすぎて「これ実話なの?」と悩んでしまった。だってこれ実話じゃないとしたらいったい何を訴えたくてこんな映画を作ったのかわからなくなるレベルでして……

横浜市役所職員の赤西民夫(田中圭)は、ある日、結婚間近だった婚約者(深川麻衣)から「いやー本命だった人が結婚してたからあんたと結婚しようかと思ったけど、向こうが離婚してくれるっていうから、あんたと結婚する必要なくなったわ! じゃあバイバイ!」と世にも軽く婚約解消されてしまう。しかし文句も言わず淡々と式場をキャンセルし、四十年ローンで購入した一軒家に一人トボトボと帰る。いや、いくらなんでも慰謝料とかね……翌日、出勤して課長(野間口徹)に「実は……」と報告すると「ごめん! おれこういうの黙ってるとか無理なんだよ!」という課長「みんな聞いて! 赤西くん結婚駄目になったんだって! だから彼のまわりであんまりめでたい話とかしないでね!」とデリカシーのかけらもない思いやり宣言! さらに課長、保護犬のシェルターを運営している妻(渡辺真起子)を紹介し、「一軒家だったら大型犬でも大丈夫だろ!」と赤西のノーと言えない気弱な性格をいいことに、貰い手のなかった保護犬(プードル・ハイブリッドの大型犬)を「気晴らしにちょうどいいよ!」と押しつける。いやたいがい相手への配慮のこれっぽっちもない展開だが、いくら気弱な市役所員だからって赤西もうちょっと主体的に生きようよ! だがまあそこで出会った保護犬、実は前の飼い主が声帯切除の手術を受けさせており、まともに鳴くことができず「はうっ!」という空気の抜けるような鳴き声しか出せないのだという。赤西はその保護犬に「ハウ」と名前をつけて飼うことにするのだがそこから思わぬ絆が生まれ、赤西も立ち直りのきっかけをつかむのでまあ結果オーライということになるのだが、だいたいこの物語の登場人物、ほぼほぼ目先のことしか考えておらず、他人の感情を慮ることなどさらにない。そのことがオープニングから見事に表現されているのだった。

さて、心が通じ合ったハウと赤西。赤西はハウを連れて山の上の原っぱに行き、リードをはずしてボールを投げてやる遊びに興じている。いや、人がいないからってドッグラン以外でリードはずしたらあかんやろ……と思っていたら……

そこにたまたま子供たちが野球をしにやってくる。野球やってるあいだ、ひなたぼっこをしていた赤西、そのままうたたねしてしまう。すると少年が見事なホームランをかっ飛ばす! 見ていたハウ、場外に飛んでいったボールを追いかけて走りだす! ボールは飛んで、階段を落ちて、そのまま跳ねて、うまいこと運送会社のトラックの後ろに入って、追ってきたハウがそのままトラックのコンテナに入りこみ、それに気づかなかった運転手が後部ドアを締めて発車。赤西が目を覚ましたときにはハウはすでに本州の果て青森にいたのだった!

 

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