柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『縁の下のイミグレ』 制度の問題を延々と論じてるだけで、なあなあにしてやりすごしつづけるかぎり、技能実習制度は決して変わらないよ

→公式サイトより

縁の下のイミグレ

監督・脚本 なるせゆうせい
原作・原案・監修 近藤秀将
撮影 佐藤雅樹
制作プロデューサー 堀内博志
出演 ナターシャ、堀家一希、中村優一、猪俣三四郎、マギー、ラサール石井

リフレ派女子高生が大人を論破するリフレプロモーション映画『君たちはまだ長いトンネルの中』でおなじみなるせゆうせい監督、今度は技能実習生問題に挑む! 近藤秀将『アインが見た、碧い空。あなたの知らないベトナム技能実習生の物語』を原作に、技能実習制度の実態とその問題点をあぶり出す社会派映画である。例によって問題意識は疑うべくもないが延々と演説しているだけなのでそれで説得される人はもともとの信者だけだろと言いたくなるディスカッション映画なのだが今回はさらにすごく、映画は最初から最後までほぼ司法書士の応接室一室で議論してるだけのワンルーム映画! 実際には主人公が空港に着くシーンからはじまるので完全なワンセット映画というわけではないのだが、ほぼワンルームで展開してしまう驚きの低予算ぶり。で、その狭いところで議論してるのはいいのだが、いくら論破しても信者が同意するだけで世の中は何も変わらない……という思いにとらわれてしまったのか、ニヒリスティックな結論に到達してしまって、それじゃ善意も台無しだよ……

 

 

某国からやってきた技能実習生ハイン(ナターシャ)を迎える監理団体の西村(ラサール石井)。日本で稼いで実家に仕送りを……と夢見るハインだったが、それから数ヶ月後……

「近藤行政書士事務所」の扉を恐る恐るノックするハインと金髪の青年土井(堀家一希)。実習先の企業から三ヶ月も給料未払いを受けて、藁にもすがる思いで行政書士の無料相談を受けに来たのである。行政書士近藤(マギー)は何も聞かずにいきなり土井にデリヘルの開業の仕方を説明しはじめ、勘違いだとわかると新人新垣(中村優一)に相談を押しつける有能で毒舌な男という性格づけのようなのだが、これは普通にセクハラである。以後、日本語が怪しいハインの訴えを元青年協力隊で現地で知り合ったというハインの友人、土井が新垣に向かって通訳し、そこに近藤が割って入って快刀乱麻(というよりは傍若無人)に切りまくるという展開が続く。途中から外国人労働者導入に積極的で技能実習制度にも肯定的なおバカ二世議員野々村も登場し、近藤にさんざん馬鹿にされるという展開も加わる。

以下、近藤が無知な新垣や土井に技能実習制度にまつわる問題点をレクチャーすると、土井が鸚鵡返ししたり、相槌を打ったり、驚いてみせたりするわけだが、ほぼ一本道なのでいちいちつきあっていてもしょうがない。映画ではそもそも行政書士がこの問題にどう関わっているのかというところからはじまり、技能実習制度にまつわる問題が、建前となる公式の説明と現実の状況とに分けて順次説明されてゆく。該当国からの「送り出し機関」、受け入れる日本側の「監理団体」それぞれがマージンを取るために技能実習生が実際に受け取る賃金はわずかにならざるを得ないこと(ここで土井が驚く)、そもそもハインは借金を抱えて日本に来ていること(ここでまた土井が驚く)、さらには監理団体を通さない「特定技能」について。土井は驚き呆れ、「そんな制度なんてなくしたほうがいい!」と口走る。そこで近藤、満を持してカメラ目線で

「きみもだよ。きみもこの問題の一部なんだ!」

 

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tags: なるせゆうせい ナターシャ マギー ラサール石井 中村優一 佐藤雅樹 堀内博志 堀家一希 技能実習生 猪俣三四郎 近藤秀将

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